少年は、樹の根本にもたれて座った男の髪を愛おしげに撫でた。
穏やかな表情で目を閉じている彼は、ただ…眠っているようにも見える。
身体を屈め傍らに座ると、優しい笑みを浮かべたままの唇に顔を寄せて……そっと口づけた。

「次に目覚めたら…アンタは怒るかも知れないね」

両手に包み込んだ顔に悪戯っぽく笑いかけると、身を横たえて足に頭を乗せる。
腕を腰に回しぎゅう…と強く抱き締めた。慣れ親しんだ香りが嬉しくて、微笑みが自然と浮かぶ。
「…でも、きっと……」
少年はくすくすと楽しげに笑う。
その間にも重くなっていく瞼…促されるそれに逆らわず、ゆっくりと瞳を閉じた。

…アンタの事だから、許してくれるんだろう…な…

続く言葉は音になることなく、微かな吐息が風に溶けるのみで……
瞼裏に浮かぶ、彼の見慣れた苦笑いに…心が喜びに溢れた。
ずっと見ていたかったのに――……徐々にその姿も霞んでいく。
思考が蕩け始める……静かな、穏やかな時。
今までに無い、至福の時を感じていた。

やっと…手に入れた…

少年は長く細い息を、惜しむようにゆっくりと…吐き出した。
心地良い頬を撫でる風。
その柔らかな感触に身をまかせ、深く深く…闇へと意識を眠らせて行く。

辺りに広がるのは晴れ渡る蒼い空と、自由に遊ぶ優しい風。
何時までも絶えない暖かな風が彼等を包み、悠久の時を作り出していた…

・・・・・・・ E n d

 

 

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