全身に浴びた血を、城近くに茂る森の中の静かな湖で洗い流していた。
夜も更けた今、物音は自分がたてる水音だけ。
煌々と輝く月光が水面の上で揺れ、きらきら反射していた。
波紋で歪む白い満月が、赤く染まって行く。
視察の帰り、ばったり遭遇してしまったモンスターを薙ぎ切った痕跡が流れ出して行く。
「……ふう…」
身体はこうして清められる。だが…
「城で湯でも浴びたら良いじゃない…?」
微かに血で濡れる手をぎゅ…と握り締めた時、ふと背後に生まれる気配。
慣れ親しんだその主は湖の淵、近くの樹にもたれて飽きれた様子で呟く。
どうにも治まらない、心のざわつきを長く息を吐いてやり過ごすと、フリックは声の方向へ振り返った。
「少し、落ち着かせたかったんでな…」
月明かりと影になり、表情は暗く良くわからない。
でも常とは違う…吐息交じりの声が彼の心情を物語っているようだ。
もたれていた背を反動をついて離し、水面へと近づく少年――ルックは、その声を聞いた事があった。
水淵からすぐの所でズボンのまま着水しているフリックのもとへ歩く。
手を伸ばせば触れる位置。当然のように、濡れた髪に触れようと伸ばした手が、す…と避けられる。
「…もう少し、待ってくれないか……」
「どうして…?」
ルックはその理由を知っていた、でもあえて問う。それを確実なものにする為に。
フリックは心持ち俯いて、返答に逡巡する。
近づいて欲しくない理由はわかっている。
でも、明確な言葉で言い表すのは難しいからだった。
「今…近づかないで欲しいんだ…」
吐き出すように答えを濁して言うフリックを嘲笑うような吐息がルックから漏れた。
その真意を確める為に顔を上げた時、ルックの腕が首に回される。
「………っ」
地面に膝をついて見上げ、身体を自分に預けてくるルックにフリックは息を飲んだ。
至近距離で見つめられる…緑の瞳。口端が少し上がり、良く見る微笑の顔。
「ルック…っ」
諌めるような声とともにその身体を追いやろうと、腕を押す。
するりとその腕は外れたが…そのまま後ろに倒れこもうとする身体に慌てて再び手を差し出すと、その腕を引かれ引き倒された。
「……く、」
ルックを潰さないように地面に手をついて身体を支える。
覆い被さり、睨んだルックの表情は……先ほどの笑みの欠片もなく。
「…1人で勝手に落ち着かれる方が嫌なんだけど…?」
下から伸びる手が、擽るように首筋をなぞる。そこから生まれる、ぞく…、とした感触。
簡単に呼び戻される心のざわつきに、ついた手に触れる草を握り締めた。
「こんな状態じゃ…お前を壊してしまうかも知れない」
触れたくなかった理由。どうしても押さえられない、戦闘後、疼く滾りを…ぶつけてしまいそうだったから。
思いやる余裕が出来ない。そんな行為の仕方をしたく無いというのに。
「僕は構わない。壊してみせて?…出来るものなら…ね」
必死で押さえようとしているのに…自分の下の少年は艶然と微笑み俺を煽る。
「……後の文句は、聞かないからな…」
乾いた喉を潤そうと懸命に唾を嚥下し、低く掠れた声で呟くと噛み付くように唇を合わせた。
「…ん、…ぅ……」
息さえも奪う激しさで舌を挿し込み口腔内を蠢かす。唾液を絡ませると、口端から漏れる甘い、吐息。
ただでさえ騒いで仕方の無い身体が、細いその声を聞いて更に誘発され、熱くなる。
性急にルックの衣服の中に手を差し入れ、深いキスで既に持ち上がっていたソレをぎゅ…と握りこんだ。
「……痛…っ……、んん…ぁ……」
かかる握力の強さに身体を竦ませて眉を寄せる。
縋りつく指先に力が入り抗議が伝わるが、構わずに手を上下に激しく動かし扱くとすぐに込められた力が抜けた。
乱暴とも言える愛撫でも、快楽に慣れた身体はすぐに反応を始める。
「あ…っ、ふ……フリ…ック…僕は、しなくていい…」
「……何故?」
嬌声を押さえながら言うルックに、愛撫の手は止めずに欲情した声で短く返した。
「ア…アンタ、が……治まらない、んだろ…?早く、シちゃえば…いいじゃない…」
必死に言葉を作り、囁く声を聞きながら空いた手で下衣をずり下げて、放る。
外気に晒された秘部が、ひく…と引き付いた。
「……そう言うわけにはいかんだろ…?お前ので、滑りを良くして貰わなきゃな…」
ぱたりと覆い被さって熱い息を耳元にかける。
組み敷いた身体がそんな刺激にも、びく…と竦んだ。
……待ってやらないからな…早く、イけよ…?
ただ高めるだけの直接な愛撫。小さく呟く耳奥への言葉と、中心を絶え間なく扱く手に呆気なく身体を快感が走りぬける。
「……っん…あ…、ぁっ…!!」
大きくびくん…と身体を震わせると、ルックは高い声を上げて、欲の証を吐き出させた。
白く溢れる液を手の平で受け止めると、落ち着く間もなく下の入口へと擦りつける。
「…あ…っ!…、ん…や……っ」
ぬめりと共に指先を侵入させると果てたばかりの敏感な身体が、過剰に反応してきつく締め付ける。
「……力抜けよ…?抜かないと…ホントに壊れるぜ……?」
ぺろ…と唇を舐め強張る内部に液のぬめりで強引に指を突き進める。
膣内の指をぐちゅり…と掻き回す度に爪先を震わせて過敏に身体が動き、喘ぎが唇から紡がれた。
甘く痺れるような声。脳内に響く嬌声に神経が焼き切れそうだ。
「もう…持たない……すまん…」
なけなしの理性で語尾の謝罪を付け足すと、ほぐす指を早々と抜き足を抱え割り広げる。
「……壊せ…って、言った…でしょ?」
熱い先端を陰唇へとなすり付けると身体を竦ませて息を飲む。
それでも見上げる瞳は慄いている訳でもなく…笑みさえ浮かべて挑発的な言葉を発した。
「…ふ……そうだな…存分に、させてもらうぜ…」
つられて喉の奥で笑い、擦り付けた堅い欲望を、ぐ…と押し込んだ。
「――っあ…あっぁ…!!…く、ぅ……」
狭く押される抵抗も構わずに、身体を押し進め一気に全てを飲み込ませた。
体内に感じられる灼熱の圧迫に、息が引き付き瞳から涙が零れる。
整った顔が苦しげに歪む。それを見据えて俺は…あろう事か、嗜虐心を煽られていた。
もっと激しく…この身体を貪りたくて、この声を歪ませたくて…そんな欲求に駆られていた。
普段ならば一呼吸置くくらいの思いすらも完全に吹き飛ばして、埋めた欲望を引き抜いた。
「…んんっ……アッ…、…い…つ、…ぅ……」
抜かれ、擦られる摩擦に熱を帯びて鈍痛が身体の奥から駆ける。
ルックの苦しげに呻く声を聞きながら、愉悦を感じる身体を止められない。
内部が溶け出す間も与えずに再び根元まで納める。
「……ぃ、あ…っ……あぁっ…ふ…ぁ…だ、め…っアツ…」
引き絞る膣内に繰り返し繰り返し、前への愛撫もしないままに腰を穿ち続ける。
全身が揺さぶられ、高く響く嬌声も共に揺れる。
「……あ、ふ…ぅ…あ、は……、く…ん」
自分の中を行き来する欲望に、ようやく内部が溶け出した頃…引っ切り無しに喘ぐ声に甘さが混じり始めた。
「……ル…ック…」
甘い甘い吐息、柔らかく包み込む肉襞、快楽で頭がショートしそうだ。
もっと…もっと、感じたくて…単純な前後動作を開く事無く続け、腰を打ち付ける。
「……あ、あぁぁ…!!フリ…ック…!!」
「んく…は、……ぁっ…ルック…!!」
快感を駆け上がらせて上り詰め、互いに熱い液を吐き出した。
瞬間に落ちそうになる意識が、すぐに湧き起こる欲望に踏み止まる。
達したばかりの中は俺に絡みつき締め上げる。その感覚でまた中心が固く熱くなり…
一息をつく間も無く、再び身体を揺すり始めた。
そうして……幾度も幾度も身体の中で液体を掻き混ぜ、快楽を求め続けた……
「……ルック…、ルック…」
優しくかけられる、心配げな声で覚醒を促される。
微かに開かれた瞳に、ほう…と安堵の息を吐いた。
…大丈夫か…?と、瞳を開き、自分を見上げるルックに恐る恐る聞く。
「……何とか…ね……」
気だるげに呟く言葉に、再度息をついて髪をかき上げる。
「すまん…」
表情の無い声が怒っているように聞こえて居たたまれなく思わず謝罪すると、呆れた溜息が1つ。
「……悪い事したと思ってるなら殴るけど?」
「あ、いや……」
そう問われて、ごにょごにょと言葉を濁した。
「……たまには、理性を無くしたアンタを見たかったんだよ…」
「…え?」
「そう言うのも…良いでしょ?」
くす…と笑うルックに、そうだな…と、同意して俺も微笑んだ。
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