もう何日こうして居るのか忘れたが、強い眼差しは相変わらずだ。
常なら精神がいかれそうな状況だというのに彼はまだ自分を保っている。

肩を押せば抵抗なくベッドに押し倒された。視線はずっとオレを見つめたまま。
頬に触れる手も避けようとはしなかった。

「いつまで続けるつもり…?」

掠れた問いに、オレは答える事なく昨晩まで続けた行為を再び開始する。
乱れたシャツ1枚しかまとっていない姿は、雪崩れ込むのには簡単だった。
唯一自由であった恭弥の足に跨り体重をかけて、それすらも拘束する。
ただし、そんな事をしなくても。恭弥は暴れようとはしなかったが。

無言で中心に触れ始めれば詰まった声が漏れる。
徐々に小刻みになっていく吐息に、己の体内も熱くなっていった。

睨む視線はオレを咎める色がある。言葉にも刺があるし、纏う気配も鋭く冷たい。
当然だろう。意に添わぬ事をされているのだ。
恭弥にとって自由を奪われる事は、何にも耐えがたい事だろうから。

それでも彼は暴れようとはしなかった。
わかって居たのかも知れない。力ずくでこの状況が打開できるものではないと。
無駄な労力を嫌うのも、彼らしいが。
それとも…。

「…ぅ…、…く…」
「熱くなってきたな…」

根元から丁寧に扱くと、恭弥の中心はすぐに硬くなっていく。
幾度となく繰り返した行為に、慣れた身体が反応していた。
施される刺激に眉を寄せ、掠れた吐息が漏れる。

快感を覚え始めれば、鋭く冷たい気配は徐々に失われていって。
自分の求める姿に近づいた気がした。

限界に弾けそうになるソレの根元を押さえると「く…、ぅ…」と苦しげな呻きが聞こえる。
手の中で大きく育った自身に、オレはペロりと己の唇を舐めて。そのまま自分の後ろに当てがった。

毎夜の行為のおかげで閉ざされていない後孔が、ずぶずぶと熱を飲み込んで行く。
中のモノがふるりと悦びに震えるのを感じていた。
ふと顔を上げれば、先ほどとは打って変わった蕩けた表情が目に入った。
上気した快感を満たしている顔に、ゾクゾクと背筋に痺れが走る。

どこかで、望んでいたのかも知れない。
この状況から暴れて傷ついてまで、逃げようとしないのは。
確かに思いを重ねたはずの自分が相手だから。
その相手から快楽が与えられるなら、自由を失う事すら薄れてしまう。
溺れ始めた思考で、恭弥は無意識に腰を揺らし始める。

「んぁ…、ふ…、恭弥の…熱い…」

快感だけを追う相手に、オレは歓喜で体内を満たしていた。
熱い欲望が内部を擦る度に、悦びが全身を駆け抜けていく。
そうして何度も貪り続ける合間に、オレは恭弥の手錠を外した。
そうすれば…応えてくれる。たとえ、快楽に溺れた行為だとしても。

自由になった手をオレの背に回すと、強く引き寄せ抱き締めた。
密着した身体を押し上げるように、全身を揺さぶり下から突き上げられる。

「は…、っく…ぁ…ァ…」
「あぁ…、たまら…ない…、恭弥…愛してる、愛してる…、っんぁァ…っ」

天井近くに小さく空いている窓から薄い朝日が差し込んでも、オレは狂ったように叫び続けた。
恭弥の全てを奪うように、中を思い切り締めて搾り出した。

もっと、もっと…。
オレを抱き締めて、キスをして。オレだけを見て。
こうしてる間だけ、オレの事だけ考えてるなら。
ずっと…、永遠に繋がっていたい。

「く…、ぅ…、あぁ…ァ」

恭弥の擦れきった声に、限界を察して。これ以上ないくらいにナカを締め付ければ。
何度となく受け止めた熱を最奥に導いた。


* * *


「こんな…事、しなくても…僕はあなたしか、見ていない」

細く掠れた声で恭弥は視線だけをオレに向けて言った。
「嘘つき」と小さく返せば、恭弥の眉根が深く寄せられる。

夜通し続いた行為の疲労で、起き上がる事はできないようだ。
内部で炎症を起こたのか散々貪った相手自身の先に血が付着していて。
全てを搾り尽くした証に自然と艶笑が浮かび、恭しくその先端に口付けた。

「ん…」

柔らかい感触にぴくりと身体が震える。鼻にかけた声で再燃しそうだ。
このまままた、行為を始めれば。苦痛に苛まれる恭弥の顔が見れるだろうか…。

オレの思考を悟ったのか、恭弥は唇を引き結んで睨みつける。
手は元通りに手錠で拘束されていた。

「自由にすれば、オレに背を向けて飛び立って行くくせに」

ベッドサイドに座り頭を優しく撫でながら、紡ぐ言葉は低く押し殺されていた。
は…、と視線を上げる恭弥に、オレは殊更甘く微笑む。

「こうして居たって、お前の心は外の世界だ」
「そんな事、は…」

違う、と答えられないのをわかっていた。
声は冷たく感情が感じられないのに、笑みだけが浮かぶ。

「目の前で舌を噛み切りでもしたら、お前の中にオレだけが残るかな」

まことしやかに嘯く言葉に恭弥は目を見開く。
黒い瞳の奥に、ほんの僅かに怯えの色が見えた。
当然だろう…、自分でもとうにわかっている。
狂っている、と。

息を飲んで見つめる相手の頭を、愛しげにゆっくりと撫でた。
恭弥は瞳を細めると、ふいに手錠が掛かる手を上げて、オレを押しのけた。
上半身を起して向けた瞳に拒絶が見える。

初めて見せた、本気の抵抗。
今まではオレへの思いが勝っていたのか、甘んじていたのだろうが。
そのうち気が済んで、落ち着くだろうとでも思っていたのだろうが、違う事を悟ったのだろう。

疲労した相手の力は弱く、吹き飛ぶほどではなかった。
強く押された胸に、何かの痛みを感じたが。それが何かはわからなかった。
自分も疲れているはずだったが不思議と行動に支障はでない。
突き動かす欲の方が勝っている。

恭弥の手を手錠ごと掴むと振りほどこうと抵抗されるが、無理やり押さえつけてベッド頭上に括りつける。
かろうじて自由だった腕も頭上に持ち上げられ、恭弥は悔しげに唇を噛む。
怒っているのだろうか。オレにはあまり向ける事のない瞳にゾクゾクとしていた。
体内が疼く…。どんな感情でも良い、全てをオレに向けてくれるのを望んでいた。

身動き出来ないようにしてから、オレはベッドサイドの机から袋を取り出した。
中から小さな注射器が出されるのに、恭弥は目を見張る。

「それ…、何…」
「お前の思考を真っ白にする薬」

麻薬の類を予想したのだろうか、答えにますます眉間が歪む。
用意した注射器を相手の腕に当てると、オレは一層優しく微笑んで見せた。

「暴れるなよ…?手元が狂って致死量が入っちまう」
「止め…て、ディーノ。…僕はあなたを愛してる。その気持ちを…消さないで」
「―――…、大丈夫だ…恭弥…。その思いだけはきっと残るよ…」

そう言って笑みを深くするオレに恭弥ははっきりと怯えの色を表情に浮かべ頭を振る。
動かないように押さえつけた腕に、注射の針を沈ませた。

「止めて、ディーノ…、ディーノ…っ!」

悲痛な声にも構わずオレは注射器を押し込んで、恭弥の体内に薬を注入した。


ゼロになったお前に、まず何を教えようか。
あぁ…、オレへの想いはきっと残ってるから…、それをもっと育ててあげる。
オレを壊したのはお前だって言う事も繰り返し聞かせて。
オレから離れられないように罪の意識を植え付けよう。

愛してる。愛してる。お前だけを…。
ほら…、目を開けて。オレの名前を呼んで。

「…ディ…ーノ」

促されるままの彼の、愛しい声で呼ばれて。
月明かりが射しこむベッドの下で、オレは今までで一番幸せそうに微笑んだ。