頬に触れようとすると顔を背けられて指が彷徨う。
すでに何日こうしているかわからないと言うのに、変わらぬ意思を見せるのに目を細めた。
ギシ…と軋ませてベッドに座ると、ディーノの顎を掴み無理やりこちらに向かせる。
閉じ込められてから数日。
さすがに体力は落ちているようで、強い力を退けるのは無理なようだ。

それでも視線が合うと、初日と同じ強い光でねめつけてくる。
恭弥は口端を上げたまま顔を寄せて唇を合わせた。

「…っつ…」

すると、痛みを感じる程度に唇が噛まれるが、血が流れる程ではなかった。
どうやら寸前で手加減したらしい。
理不尽な拘束へ抵抗があるものの、己への感情からか完全に跳ね付ける事が出来ないようだ。
(甘い…)恭弥は未だ葛藤の残っている彼に微笑する。
それだからこんな風に付け込まれるんだと、僅かに傷になった唇をぺろりと舐めると。
睨む視線も気にせず何も身につけていない肌を指で伝い胸を撫でた。
途端に、びく…と身体が震え吐息が漏れる。

夜ごと快感に苛まれた身体はすっかり過敏になっていて、反応も著しい。
しかもいわゆる媚薬と言われる薬を毎夜与えている。
日中離れている間に落ち着くようだが、それでも体内には残っていて。
少し触るだけで呼び起される。

そのまま胸の突起を弄りだすと、指から逃れようと身体が横に動いた。
しかし頭上で繋がれている手錠が邪魔して、完全に体制を変える事は出来ない。
悪あがきをする相手に、優しく撫でていた突起を強く捩った。

「ぃ…っつ…」

眉根が寄り苦痛の呻きが漏れる。
痛みを感じているのは確かだろうが、それだけではないようだ。
項垂れていた彼の中心が、ぴくりと動いたから。

「これもイイくせに…」
「…っ煩い…、いつまで、続けるんだ…こんな、事…」

ぐりぐりと硬く尖る突起を弄ってから唇を寄せて吸いついた。
抗議の言葉が続くものの、濡れた感触に甘く鼻にかかった声になる。

「あなたが僕のものになるまで」

さらりと答え、恭弥はベッドに上がりディーノの足の間に身体を納めた。
後ろに手を伸ばして指を這わせる。
暫く続けた行為のおかげで、そこは程良く柔らかく阻む事なく指が入って行く。
与えられる刺激に力が抜け、身体を捩る動きも無くなった。
はぁはぁ、と浅く呼吸をしながら、ディーノは懸命に言葉をかける。

「っ…ぁ、…ぅ、…もう、お前の…だろ?とっくに…」

だから馬鹿な真似はもう止めろと。言葉の裏に含まれた意味が伝わる。
恭弥はそれに、く…、と喉奥で笑った。それが嘲笑のように聞こえて、ディーノは目を見開く。
ディーノが息を飲んだ瞬間、既に硬くなっていた自身を一気に後ろに突き入れた。

「―――っひ…ぅぁ、あぁァっ!…」

急激な圧迫に悲鳴じみた嬌声が辺りに響いた。
心地良く脳に染みる音に恭弥は恍惚と艶笑する。そして常のように、身体を揺さぶり始めた。

「ぁ…っ、…んぅ…や…、もう…恭弥…、止めろ…!」
「そんな風に拒むくせに、どこが僕のものだって?」
「……!…それは、辺り前だろ?…んっ、ぁ…こんな扱い、…誰だって…」
「―――その思考すら、僕には邪魔だ。ほら…消してあげる。溺れなよ」

ぐちゅぐちゅと内部を熱い塊で犯しながら、恭弥はポケットから小瓶を取り出した。
馴染みのあるそれに、ディーノは必死に頭を振る。
嫌だと叫ぶ口に指を捩じ込んで隙間を空け、無理やり中の液体を流して飲みこむように口を手で覆った。
暫く抵抗して吐き出そうとしていたが、隙を見て抜いた自身を思い切り奥に埋め込むと。
思わず喉が開いたのか液体が流れこみ、激しく咽る。

「…ぇぅ…、げ…ほ…っ、げほ…、ぅぅ…」

口端から涎が流れ苦しさに涙も溢れて、酷い有り様だったが。
何よりも愛しいそれを恭弥は嬉しそうに見つめて、汚れた口端を舌で拭う。
涙で濡れた瞳の奥に、怯えの色がはっきりと見えた。

あぁ…、わかってる。僕が狂ってるのなんて、今さらだ…。

薄い笑みを絶えず浮かべ、熱い内部に自身を揺らせば。
薬が回って来た彼の瞳が彷徨い始めた。

濡れて光る蜂蜜の瞳からは、欲以外の色が消えて。
恭弥を導くように足がしどけなく開かれていく。
意思が消えたのを確認すれば、恭弥は繋いであった手錠を外してやった。
すると自然に腕が背に回ってきて、恭弥は愛しげに身体を抱き締めた。

「ぁっ…ん、ぅぁ…、ふ…、ぅんン…あ…っ」

揺さぶれば素直に甘い喘ぎが聞こえ、陶然と耳にしながら何度も何度も、貫いた。
天窓から注ぐ光が月明かりから朝日に変わっても、行為は止まらない。

「愛してるよ…、ディーノ…。愛してる…」
「は…、ぁ、ァ……あい…してる…、ぁ、んン…ァ…ぁ!」

脳裏に染み込ませるように愛を囁けば、呼応して喘ぎ混じりに返ってくる。
今この瞬間は、紛れもなく自分だけのものだった。

どうすれば、これを永遠に出来るのだろう。
何度掻き抱いても、正気が戻れば思考は彼の大切な者へ帰って行く。
暗闇に閉じ込めても、壊れる程抱いても、強く輝く意思は薄れる事はなかった。

それならば…、いっそ。
彼の舌を噛み千切ってしまおうか…。
あぁ、それよりも。永遠に正気を消してしまった方が良いだろうか。

「ぁ…ァ、…ふァ…、んぅ…ふ、…く…」

喘ぎ続けて掠れきった声を漏らす、組み敷いた相手の頬を優しく撫でた。
薬の効果も薄れてきたのか、嫌がるように力なく頭を背ける。
ほら…もう、消えてしまった。僕だけのあなたが…。

どうしようもない焦燥感に捕らわれて。恭弥は再度瓶を取り出した。
しかし、口元に向ける事は出来なかった。
今までだってそうだ。躊躇いで最後の線を越える事が出来ない。

その時、ディーノの口が緩く動いた。
音にならない声で何かを囁いていた。唇の動きを辿って意味を察した時。
最後の躊躇が薄く、消えて行った。

無意識だったかも知れない。意思があれば言わなかっただろう、それに。
僅かに残っていた理性が途切れる。

残っていた液体を今度は躊躇なく、ディーノの口に流し込んだ。
一晩の適量を超えれば、彼はもう…僕だけのものだ。

吐き出す力もないのか、ディーノは含まされた甘い液をこくりと飲み干した。
暫くして、びく…と大きく身体が震える。
媚薬効果も相まって、血が混じる程に散々絞った自身が再び頭を擡げていた。

「ぁ、…ぁっ…ぅ…、ふァ…、あ…!」
「…抱いて欲しい?」
「っ…ん、…ぅん…抱いて、だいて…、早く…、熱…ぃ…っ」

薬で無理矢理高められた身体に刺激が欲しくて、聞かれるままにディーノは頷いた。
ゾクゾクと体内から痺れが走って行く。
請われるままに、埋めていた自身を再度動かせば。乱れるあなたの姿があって。
手を伸ばせばすがるように僕に抱きついてくる、愛しい身体がある。

「ねぇ…、僕の名前を呼んでごらん…?」
「んっぁ…、ぁっ…、ん…あぁ…もっと、…もっとして」
「―――恭弥…、だよ。…きょうや…って、言って」
「っぁ…ふ、…きょ…や、…きょーや…っもっと…」

促されるままに名を呼ぶのに、僕は応えて激しく腰を動かした。
何もわからない僕だけを見るあなたに、本当の愛を植え付けてあげる。
ずっと側に居るよ…。

「愛してる…」

強く抱き締めて、息も奪うようなキスをして囁くと。
嬉しそうにあなたが微笑んだ。それから掠れた声で「あいしてる」と答えてくれて。
震える程の悦びを全身に感じて、僕はあなたを思い切り抱きしめた。

あぁ…ようやく、手に入れた。

僕だけの『あなた』を。