そのまま沈黙が続いて、ディーノが体温の心地良さに目を閉じていると。
急に耳朶に息を吹きかけられ、びくん…と身体が揺らいだ。
驚いて肩越しに振り返ると、反対から回された腕に顎を捕えられる。
「きょ…っや、…っん」
固定された頭に逃げられず、屈んだ恭弥の唇が合わさった。
舌を差し込まれるのを防ぐ間もなく口内で絡め取られ蹂躙される。
唾液の音をさせて深くされる口付けに、急激に官能を呼び起こされた。
それに何だか、いつもより…
「……ん、ん…、は…なせ…っ、きょ、や…」
いつものキスより、体温の上昇が早く、体内がざわめいて。
耐え切れずに必死で顔をずらした。頬が紅潮しているのがわかる。
逃れるディーノが熱い息を吐いている様子に、恭弥は笑みを浮かべた。
「ワォ。…ずいぶんイイ顔するね。普段より感じる?」
「ば…っか、ちょ…、やめろって…!」
小さく笑うのを耳元に聞き、Tシャツの中に恭弥の手が侵入して来る。
ディーノはぢたぢたと止めようとするが、後ろから抱き込まれていて制止できない。
これが体格差と言うやつだな。と現在の状況を改めて知らされるが、そんな分析をしている場合じゃない。
「お前…!!いたいけな少年に、悪戯すんじゃねー!」
「何言ってるの。普段、未成年に手を出しているのはどこの誰?」
「手を出されてるのは、オレの方だろぉ?!」
言いながら情けなくなったが。しゃあしゃあと言う恭弥に突っ込まずにはいれなかった。
そうこうしつつも恭弥の手は肌を這いずりまわっていて。
胸の突起に触れて、つい…と軽く摘む。
「…っぁ…、や…っ…」
急な刺激に首がすくんだ。何だか恭弥の言う通りに、過敏になっているように思える。
(身体の…せい、か…?)
普段、この程度で取り乱したりはしないものだが。
それは経験に基づく自制心によるもので。そしてその経験は身体に刻まれた部分が大きいらしい。
当然、こんな年にこんな事を受けた事のない身体だから。
恭弥の愛撫にいちいち反応してしまっているようだ。
胸からの刺激にどうにも抵抗できず、歯を食いしばっていると。
後ろから伸びた手が腰を回り、下肢に降りようとしていた。
「……っ、ぁ…ダメだ。…駄目だって、恭弥…っ」
こんな状態で、覚えのあるその行為を受けてしまったら。
鋭敏になっている感覚に戸惑いを感じ、ディーノは腕を抑えようとするが、
耳元で「大人しくしていなよ」と、息と共に囁かれ、びくん…っ、と指先が止まる。
抗うのを止める相手に恭弥は微笑して、耳に舌を這わせつつ、ズボンの中へ手を入れた。
固くなり始めているソレを指で包んで軽く扱く。
「ァっ!…あ…、や…め…。っ…」
常よりも高く細い声が上がり、びくびくと腰を引きつかせる。
如実に返って来る反応に、恭弥は楽しげに、ペロ…と自分の唇を舐めた。
「いい反応だね。そんなに感じるんだ…?」
肩口で聞こえる恭弥の低く響く声に、耳奥まで侵食されるようだ。
止めろ、と言って押さえたかったが。自分の手はすでに添えるだけになっていて。
駆け巡る快感に、翻弄されてしまっていた。
「んっ…、あ…、ぁっ…だめだ…、そんな…したら」
「もう?」
切羽詰った声に恭弥は鼻で笑う。
揶揄るような言い方に羞恥を感じるが、駆け巡る快感に抗えなくて。
ただ単調に上下に擦られるだけで、すぐにでも上り詰めてしまいそうだった。
「もう…、…っく、きょ…や、ぁ…、ぁっ」
鼻にかかった泣き声と、涙を滲ませて必死に耐えるような表情に、どうにも嗜虐心を煽られて仕方が無い。
(だけど…)恭弥は興奮を覚えつつも、内心で引っ掛かりを感じて、苦笑する。
軽く息をついて、そのまま焦らす事なく開放へと促してやった。
「……っあ!…、あ、ぁ、…っぅ…んっ」
達する事を覚えている感覚が、愛撫に反応して。ディーノは息を詰めて絶頂を迎えた。
くったりと背を恭弥の胸に預け、はぁはぁと、荒く呼吸をする。
恭弥は手早く精を拭って、ぼう…っとしているディーノを抱きなおすと、最初のように柔らかく腕を回した。
「…続き…、しないのか?」
そのまま動かなくなった恭弥に、怪訝そうにディーノは言った。
いたぶるのが目的だったなら、ここで止めるのはおかしい。
身体が小さかろうと何だろうと、遠慮するような性格ではないのだ。
窺うようなその問いに「して欲しいの?」と小さく笑われて、咄嗟に大きく頭を横に振る。
「…そう思うなら、僕の気を変えるような事は言わない事だね」
と、言う事は。恭弥は行為を続ける気はないらしい。
ディーノは怪訝に思いつつもほっと息を吐いていた。
それを薄目で見ながら、恭弥は先ほどの引っ掛かりを思い出して溜息をついた。
理由はおおよそわかっている。
(僕が欲しいのは、そのままのあなただからね)
何となく感じた違和感は、自分が望むものとの相違にあったようだ。
だから、止めたのだ。これ以上やっても、きっと楽しめない。
それを告げるつもりはなく。安心したように力を抜くディーノを、ぎゅ、と抱き締めた。
すると、何故かびくん、と身体が震えた。
「何?」
「だって、お前…」
ディーノが頬を紅潮させて、肩越しに視線を向ける。
密着した状態になって、尻に当る恭弥のソレの状態が伝わったのだ。
「お前、そんなんでキツくないのかよ」
「…別に」
戸惑い気味に呟いたディーノに、素っ気無く返すだけだったが。
気だるげな表情が状態を物語っていて。
それを目の端に見て思わず「オレ、してやろうか?」と言葉にしてしまっていた。
おずおずと言い出したそれに、恭弥は少しだけ目を張る。
どうやら、自分だけイかされて気まずいのだろう。そんな雰囲気が伝わってくる。
恭弥が「ふうん…?」と微笑すると。ディーノは慌てて。
「抜いてやるって、だけだから、な!」
と強調した。恭弥は数秒、思案するように目を伏せると。
「じゃ、口でしてくれる?」と意地悪気に笑んで、言った。
どうするかな…。暫くディーノを見つめていたら。
ごそごそと身体をこちらに向けて、屈みだしたから。どうやら要求を実行するらしい。
放っておけば治まるだろう熱ではあったが、やってくれると言うなら断る事もない。
相手がどうあろうと、物理的に触れられれば気持ちはいいのだ。
足の間に顔を埋めて、ソレを取り出したディーノは、躊躇いなく口をつけた。
何度かやった事がある行為だったから、戸惑いはないようだ。
「……ん、…ぅ…ん、ん…」
鼻腔から息を漏らしながら、硬くなるモノを愛撫していく。
いつもより小さくなっている口で苦戦しているのか。眉を寄せながら、先端だけを頬張って舌を這わせて。
苦しげな表情を見下ろし、これはこれで、楽しいかも、と恭弥は興奮を煽られ中心を熱くしていく。
「……っ…、く…」
ほどなくして息を詰め、身体をぶる…と震わせると、恭弥は精を吐き出した。
咄嗟に口を離そうとしたディーノの頭を、ぐ…と引き止めて。口内に吐瀉する。
「んんっ…ん、…ふ…」
「全部…、飲み込んでよ」
咽そうになって涙目になるディーノに、擦れた声で要求されて。
ディーノは苦しくも、何とか口内のものを飲み込んだ。
あどけない少年姿の彼が、瞳を潤ませ、唇を濡らす表情は何とも扇情的で。
いやおうなく上がる鼓動に、恭弥は目を伏せて、憮然と呟いた。
「あんまり、そういう顔して煽らないで。続きがしたくなる」
「…それなら、何で…、続きしないんだ?」
そう言って、ディーノは、はっと口を押さえていた。
その口調と響きから察するに。彼の方も物足りなくなっているのだろう。
(困ったものだね…)と、恭弥は内心で溜息をついた。
匂わせてしまった事が恥ずかしいのか、顔を背けていたディーノをやんわりと引き寄せる。
「早く元に戻りなよ。そうしたら、いくらでもしてあげる」
そう言って、とんとん…と落ち着かせるように背を叩く、手があまりにも優しくて。
ディーノは驚いて目を見開く。
表情を見ようと顔を上げたくても、しっかりと抱きこまれていて確認はできなかったが。
背を撫でる手が心地良くて。ディーノはそれ以上は何も言わず、そのまま目を閉じた。
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