★!…あなたって人は…


ホテルの最上階で昼食を済ませた後、ディーノ達は再び、宿泊してある部屋に戻った。
釘を刺した甲斐もあって、今日の食事はほどほどの量で。
美味しいと感じられる程度に済んだため、用意していた胃薬は必要なかったようだ。

部屋に入った途端、ディーノの携帯が鳴って少し興醒めする思いだったが。
仕事の合間に無理をして、こちらに来ているのだから、それくらいは大目にみよう。

ただ、デザートを食べる時間はなさそうだな。
恭弥はソファに座って壁かけの時計をちらり…と、見る。

確か、イタリアへの直行便は朝〜昼の時間しかないと聞いた。
だからいつも5日は早めに昼食を取って帰っていくのだが。
出ていく時間まであと30分もない上に、電話の応対で手間取っているらしく。
聞き取れないイタリア語で、何やら早口でやりとりをしている。

まぁ…、それを見越して毎回、前日の夜から泊まって行くわけだから、構わないけど。
昨夜散々したおかげで身体の方も満ちている。
朝に言ったデザート発言は、ただの軽口だったから、まぁ良いか…と。
手持ち無沙汰になった恭弥は、置いてあった新聞を広げ出した。

暫く読み始めていつの間にか集中していたら。

「おい恭弥、聞こえてないのか?」

と、新聞の上の方をつまんで引っ張りながら、呆れたような声が降ってきた。
どうやら何か言われたらしいが、聞こえてなかった。
「何?」と言いながら、ちらりと時計を見ると。ちょうどいつも出ていく時間の5分前だった。

「何、じゃねーって。今日は時間ができたぜ…って言ってんのに」
「……何で?もう出る時間でしょ?」

そう思って、新聞をたたみ立ち上がった恭弥だったが。
意外な言葉に、訝しげにディーノを見つめる。

「そうだな、いつもだと空港に向かう時間だけど」

ディーノは怪訝な顔をしている恭弥に近づいて、ちゅ…と軽く頬にキスをした。

「デザート、食いたくねぇ?」

そう言って、に…っと笑ってみせるディーノに。恭弥は虚を突かれて、瞬きをする。

「さっきの電話でさ、飛行機の時刻を3時間遅らせて貰ったんだ」
「……帰れる便があるの?」
「あぁ、直行はないけど。経由便なら16時くらいまで大丈夫だ、ちょっと…面倒だけどな」

ま、そこの手配はロマーリオに任せたから。と肩を竦めるディーノに。
あの人も大概、振り回されてるな…と黒服の黒眼鏡の人物を思い浮かべる。
だが別に同情する気は起こらなかった。結局はあの人も、彼を甘やかすのが好きなのだ。
それがわかるくらいには、恭弥も周りを見れるようになっている。

心も身体も満たされてはいたけど。差し出されたものを断る理由もない。
ただでさえ暫く会えなくなるのだから。補給はしておくに限るだろう。

「……あと、3時間か。充分だね」

恭弥はディーノの首に腕を回すと、くい…とその頭を引いて。
屈んで近づいた唇に口付けた。





「……なぁ、恭弥。…カーテンは閉めていいよな?」

大きな窓が備え付けられた部屋は、ホテルらしく陽光が差し込む構造になっている。
昼間に行為をした事がないわけじゃないが。やはり明るい中、というのは抵抗があるらしい。

上だけを脱いでベッドに上がったものの。
部屋の明るさに苦笑して、カーテンを閉めに行こうとする腕を恭弥は引き止めた。

「せっかく昼間のデザートなんだから、暗い中では食べたくないな」
「……、お前…」

顔を顰めるディーノを、ぐい…と引き寄せて。自分の下へと倒す。
あくまでデザートに例える恭弥に口元が引き攣るが。自分も言った手前、引くに引けない。
仕方ないか…と、辺りの明るさは忘れる事にして、ディーノは胸に顔を埋める恭弥の髪を、撫でる。

「デザートってさ、甘いもんだろ」
「……充分、甘いよ?」

く…、と喉奥で笑って、恭弥は色付く突起を口に含む。
訪れる刺激に頭上から「……んっ」と密やかに声が漏れた。

「……お前って時々恥ずかしい発言するよなぁ」
「あなたほどじゃない」

いつも歯の浮く台詞を言う、このイタリア人に言われたくないが。
しかしもしかすると、自分は感化されてきたのかも知れない。

(でも、本当に甘く感じるんだから仕方ない)

その原因は恐らく、この匂いだろうなと思う。
感じ始めると香り立つ、ディーノの香水が鼻腔を擽り、錯覚を覚えるのだ。
香水は体臭で変化すると言うが。ディーノの発汗と共に、それは更に甘い香りになる気がする。
こんな風に思う事自体、自分もおかしくなってるんだろうけど…と。
人事のように自嘲し、それでももっと高まらせる為に、唇を肌に落とす。

徐々に下げていく舌の感触に、身体を竦ませるディーノにほくそ笑んで、ズボンのチャックを降ろした。
主張を始めているモノが下着の上からでもわかる。
柔らかい布越しに何度か揉むと「恭弥…っ」と、焦って呼ぶ声が聞こえた。

「…待った。…汚したくねぇ…っから、脱ぐ…って」
「あぁ、そうか…。この後行かなきゃいけないものね」

制止に納得して。自分で脱ごうと伸ばした手を止め、恭弥は下着ごとズボンを一気に降ろす。

「……ワォ。昼の明るさの中で、全裸っていうのも凄いね」
「ばっか。あんま見るな…」
「誕生日の締め括りには悪くないよ。これからいつも…時間を延ばしてもらおうかな」

眼下に横たわる、良く見えるバランスの良い体躯に、恭弥は口端を上げて笑い。
文句が言われる前に中心を握りこんで、ディーノを黙らせる。

「はっ…、ぁ…」
「応接室よりも明るいし…、なかなか楽しめるよ」
「……っん…、ぁ…っく…」

揶揄るように言う恭弥に、いちいち抗議をしたいようだったが。
中心を擦ってやれば、ディーノの口から漏れるのは吐息と甘い声だけになる。
電気を点けなければ薄暗い応接室とは違い、光を効率良く取り込むようにできているホテルの部屋は本当に明るくて。
仄かに染まって行く肌の色まで見てとれてなかなか壮観だ。

「は…、ぁっ…、ァ…ッ…」

快感が溜まってきたのか上がる声に余裕がなくなってきている。
興奮を感じながら、それに見入っていると。
ディーノが身体を捩じらせて、恭弥の腕を引っ張った。

「何…」
「…、も…それ、やんなく…って、ぃぃ…っ」
「どうして?気持ちいいでしょ?」

ビクビクと脈打つモノが快感の証だというのに。
ディーノは小刻みに喘ぎながらも、緩く頭を降る。

「…、お前ので…、感じたい…から。…お前の、…恭弥の早く欲しい」
「……っ!…あなたって人は……」

熱っぽく強請る鼻にかかった声に、恭弥はドクン…と脈拍が速まるのを感じていた。
瞳を潤ませて頬を上気させて。手を差し伸べるディーノは。
自分がどんな表情をしているのか、わかっているのだろうか。
はっきりと見える欲に満ちた表情は、壮絶な色香を放っていて。
自身の中心に急激に熱をもたらしてくる。

「本当に始末におけない…、そんな表情…他に見せたら殺すよ…?」
「見せる…わけ、ねぇ…だろっ、こんなの…お前に…っしか…ぁっ、ァ…ッ」

一気に欲を引き上げられて恭弥にも余裕がなくなってきている。
濡れた指を早急に後ろに持っていき、覚えている快感のポイントを焦らす事なく解きほぐした。

本当に、あなたって人は…、どれだけ煽れば気が済むんだろう。
じっくりと堪能しようと思っても、すぐに余裕を壊されるんだからたまらない。
それは3年の間ずっと同じで。今日、年齢を重ねても変わる気が全くしなくて。
そして最終的には自分も共に、溺れてしまうのだ。
甘く漂うあなたの香りと、脳髄に染みるような声に。

「……いく…よ」

そう告げた自分の声が、酷く擦れている事に舌打ちしたい気分だ。
だけど、それを聞いたあなたが。
欲に濡れた蜂蜜色の瞳を薄く開けて、嬉しそうに微笑むから。
もう自分の性急さを自嘲する気持ちなんて、吹っ飛んでしまった。

「――っぁ…!っく、ぁ、ぁ…っ」
「…くっ…、ァ…」

後ろに挿入する圧迫に、苦しげに声を上げてディーノの首が仰け反った。
ぎゅ…と眉を寄せて耐えるような表情にすら感応を擽られて。包まれる快感に、低く呻く。

あぁ…、この明るさ。表情の細部さえ良く見えて、本当に素晴らしいけど。
これを楽しんで眺められるのは、まだ先の事になるだろうなと。
中の熱さに引きずられて快感で白くなる思考の中。
ぼんやりと思っていた。


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2008.05.11