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嵐戦終了後、ツナ達と一通り話を終えたディーノは負傷した獄寺を連れて病院に来ていた。
中山外科病院、と表示された建物の前で車から降りる。
「大丈夫か?足元ふらついてるぜ?」
「てめーの手は借りねーよ!」
後部座席から降りた獄寺がよろけたのを見て、さっと手を出して支えてやると、不機嫌な声と共に弾かれた。
「ったく…、可愛くねぇー…」
所在をなくした手はそのまま頭をかく。
呆れたように言うディーノに、ロマーリオは笑って、軽く背を叩いた。
「マフィアのファミリーがいい子ちゃんじゃ困るだろ。活きが良くていいじゃねーか」
「そりゃーそうだけどよ。ツナみたいな例外もあるし…」
「十代目を気安く呼ぶな!」
ツナを引き合いに出したのが気に障ったのだろう。
獄寺はディーノに向かって殴りかかるが、負傷した身体では上手くいかずふらついてしまう。
当然、そんなものが当たるわけがなく。ディーノが軽くかわし、ロマーリオがなだめるように獄寺を支えた。
「……活きが良すぎるぜ」
そうディーノが苦笑した瞬間。背後に恐ろしいほどの殺気を感じた。
ぞくり…と、それを悟った瞬間、ディーノは考える前に振り向きざま鞭を掲げる。
経験からくる咄嗟の反応は功を成し、闇から襲い掛かった打撃を受け止めた。
「……っ!…恭弥!?」
「あー…、また更に元気なのが来たな」
呆気に取られている獄寺の横でロマーリオがやれやれ、と肩を竦めた。
ぎりぎりぎり…。止めた鞭をそのまま振り下ろそうとしているのか、腕に力がかかる。
「なに、いきなり切れてんだよ!恭弥!」
ふ…っ、と鞭を緩めて膝を曲げ体制を低くすると、力を込めていた恭弥の身体ががくん…と前のめりになる。
素早く身体を翻し、振り返る前に両腕を後ろから掴んだ。
もがく恭弥を押さえ、「ロマーリオ」と目配せすると。彼はすぐに頷いて、獄寺を病院の中へ連れて行く。
何やら文句を言っているようだったが、獄寺はずりずりと引きずられて行った。
辺りに誰も居なくなると、これ以上足掻いても無駄だと悟ったか、恭弥から力が抜けた。
気を張りつつも腕を開放してやると、肩越しに強い視線が向けられる。
(おー…、睨んでる睨んでる…)
不機嫌な表情はここ数日で見慣れたものだ。
何に不満があるのかなんて予想はついていたが、ディーノはあえて問う。
「……ったく、どーしたんだよこんな夜中に」
「あなた、学校の事を隠していたね?だから僕を遠ざけた」
「なんの事かわからねーな…」
予想通りの回答だったが、ディーノは嘯いて視線を泳がせた。
途端、溢れる恭弥の殺気と、素早く振り返り、瞬時に喉元に当てられたトンファー。
その超人的なスピードについていけず、ディーノは頬を引き攣らせる。
「……死にたいの?」
「わーーっ!…ま、待て!…そーだよ、知ってたよ!」
ぐ…、と喉を圧迫する金属の感触に慌ててディーノは言い直した。
誤魔化しが聞くとは思ってなかったが、このままだと問答無用で殺られそうだ。
「…落ち着けって!だいたい、隠すも何も、お前が話を聞かないから悪いんだろー!?」
学校の事は言うつもりはなかったけれど。
たとえ言おうとしても聞く気のない恭弥の態度を引き合いにしてディーノは言い返す。
当てられたトンファーの先を掴む前に、恭弥は自ら手を引いた。
未だ不機嫌そうではあったが、シュ…っ、と鋭い音をさせて一瞬で武器は折り畳まれる。
「―――聞いてあげるよ。これの話でしょ?」
先ほどよりは幾分、抑えた声でそう言って、変わりに制服のポケットからリングを取り出した。
「へぇ?どーいう風の吹き回しだ?」
今まで全く耳を傾けようとしなかったのに。
ちゃんとリングを持っていて、なお話を聞かせろだなんて。
ディーノは驚いて首を傾げる。
「赤ん坊が面白そうな事を言っていたからね…」
ぼそり…と答えた言葉に、ディーノは、あぁ…とすぐに納得した。
学校からの帰り際、「良く大人しく、恭弥が帰ったな」と問いかけた時、リボーンが答えた事だろう。
どうやら恭弥が固執している部分らしいが、戦いをネタに引き下がるところは、彼らしいと思う。
なんにせよ話を聞いてくれる気になったのだ、これを機に説明しておかなくては。
「長い話になるし、中に入らないか?」
ディーノは病院を、くい…と顎で示すと、恭弥を促した。
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