1:声が枯れるまで
もう、どれくらい続いただろう。
辺りは暫く前から暗くなっていて、時間の感覚は失せている。
ずっと途切れる事なく響いていた声が、いつの間にか息だけになっていた。
「…ょー…やっ、…も…、や…め」
ふいに、止まっていた音が搾り出すように細く、下から聞こえてきた。
ぜいぜい、と荒く呼吸をしながら、あなたの何度目かの制止だ。
やっとの事で出された声もはっきり聞こえなくて、僕はぐい…っと身体を進ませた。
「…っ!!……は、……」
期待した嬌声は上がる事はなく、引き攣った吐息が漏れるだけだ。
すっかり枯れた声に、「仕方ないね…」と呟くと、僕は身体を曲げて口付けた。
繋がりが深くなり、びくん…と組み敷いた身体が震えるが構わない。
くちゅり…、湿った舌を差し入れて唾液を絡める。
渇ききった喉へ流された唾液を、舌を絡めながら、ディーノはこく…と飲み込んだ。
「もっと聞きたかったけど、出ないなら仕方ない。そろそろ終わって…あげるよ…」
「……っ…ぁっ!…ぅ、…っん…」
終わらせる為に身体を揺すぶり始めると、少し湿ったせいか、消えていた声が戻った。
再度上がった甘い声に、恭弥は笑みを薄く浮かべた。
*
『もうちょっと加減してくんねーか』
「してるじゃない?」
「どこが…!…っ!…げほ、っ…げほ、…ぅえ…」
今朝から、すっかり声が掠れきっていたディーノは、筆談で恭弥に抗議をしていた。
それに飄々と答える少年に、喉の痛みも忘れて怒鳴ろうとし、案の定咳き込んでしまう。
恭弥は中央のソファにどっかり座って、駆け寄る事もなく眺めている。
苦しさに薄く涙を滲ませて、悠然としている恭弥を恨めしそうに睨んだ。
『どこが加減してんだ』
書くのも面倒で息だけで喋ったが、通じたらしい。
「してるよ」と、再度答えた恭弥は目を細めてベッドを見る。
「してなかったら、今頃まだ、あの中だろうね」
「……………」
恐ろしい事をさらりと言う恭弥に、ディーノはがっくりと肩を下ろした。
(下になる方の身にもなってくれ…)額を手で覆い、うなだれる。
やるだけのお前と違って、こっちの負担のがでかいんだ、と何回繰り返したらいいのやら。
ホントに、一回味合わせてやろーか…こいつ…。
不穏な事を考えていると、向かいのソファに座っていた気配が近づいていた。
「あなたが盛大に鳴いてくれるから、止めれなかったんだ」
「……!!!!!」
見下ろして言った言葉に、ディーノの頬に、さっと朱がかかる。
がばっ、と顔を上げて睨みつける顔を両手で捕らえ、恭弥は微笑した。
「いい声、堪能させてもらったけど。これからはもう少しだけ、加減してあげる」
「………?」
続けてからかわれるのかと思ったら、恭弥は笑みを潜め、静かに言った。
頬を両手で挟んだまま、じ…っと見つめている。
『恭弥…?』神妙な面持ちに、不思議そうにディーノは呼びかけた。
当然、口が動くだけで声は出ない。それに恭弥の瞳が揺れたような気がしたが。
すぐに仕掛けられたキスに、覗き込む事ができなかった。
「……んっ、……ふ…」
深くエスカレートしていく口付けに、鼻腔から吐息が漏れる。
(ヤバ…、またスイッチ入っちまう…)
一向に離れず、感応を呼ぶように絡めだす舌に、ディーノは慌てて身体を押した。
恭弥は意外にもあっさりと引き下がり、唇が遠ざかる。
気になって再度表情を見ようと思ったのに、ふい…と顔を逸らして離れてしまった。
問いたげに自分を見るディーノの視線は気づいている。
でも、恭弥は答えてやるつもりはない。
そのまま扉に近づくとさすがに止めるような声が聞こえたが、また咳き込みに変わった。
振り返らずに、恭弥はある人物を探して部屋を出る。
ずんずんと廊下を歩きながら、恭弥は晴れない気分に、ため息をついた。
あの時の、あの声。普段聞けない、上ずったあなたの声。
ずっと聞いていたくて、何度も何度も突き動かして。制止なんて聞く気もなかった。
すっかり堪能して上機嫌で目覚めたはずなのに。今の気分は雲がかかったようだ。
原因はわかっている。だから、少しだけ。少しだけ後悔したけど。
(でも、絶対。言ってやらない)
そんな事を思った自分にも腹立たしいのか、恭弥は、ぎゅ…と口を引き結ぶ。
長い廊下を渡り、エレベータの付近で、他の黒服と話している目的の人物を見つけた。
あの人の、第一の部下に足早に近づくと、不思議そうに見る顔に言う。
「喉に良い、薬ってある?」
教えてなんてあげないよ。
普段のあなたの呼ぶ声を、聞けない方が、嫌だなんて。
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思った以上に、お題部屋のお二人はあま〜くなってしまいそうです(笑)
おかしい…このままだと普通に、愛の言葉を吐きそうだ…(爆)
ラブなCPが好きだから仕方ないかなぁ…(笑)