4:まるで花弁のように
僕は場所なんてどこでも構わなかったけど。
無理に押し通すのも面倒だったから、あなたの言う事を聞いてあげた。
応接室では触るだけに止め、今は車でホテルに向かっている。
運転しているのは待機していたロマーリオだ。
部下が居ればディーノでも運転できるのだが、どうやら気分が乗らないらしい。
その理由を、恭弥は知っている。
「顔が赤いよ?」
「嘘つけ。変わってねーよ」
表面上は平然としている様子にかまを掛けるが、さすがに動揺する事はなかった。
ディーノはちらりと視線を向けただけで、再び車の窓の外を眺める。
その横顔を見るだけなら、普段と何ら違いはないけれど。
声が少しかすれているのがわかる。香水が、体温で高められているのもわかる。
それだけの変化でも、恭弥にはディーノの状態が知れていた。
だって、その原因を作ったのは自分だから。
学校の応接室では、確かに最後まではやらなかっけど。
後ろに指を入れて散々かき回してやったから、体内に感触が残っているはず。
通常の行為を考えれば不完全燃焼だ。熱が残っていてもおかしくはない。
(僕も同じだけど…)
一度は達したものの、自分も治まっていない欲求に悩ましげに吐息をついた。
それに気づいたのか、ディーノが恭弥の方へ顔を向ける。
「お前の方がキツそうだな」
「……そんな事言ってると、後悔するよ」
小さく笑ったディーノに、む…として睨んだ。
表情に出ないだけで、最終的に堪え性がないのは自分の方だってわかってる。
自分よりも燻っているはずなのに、ディーノは普通に笑みくらい浮かべてみせる。
きっと彼は、このまま何もせずに終わったとしても、やり過ごせるだろう。
その余裕にムカついて、恭弥はディーノの太ももを、つ…と指で撫でてやった。
ぴく…と、膝が震えるのに気を良くするが。
表情は微苦笑しただけで、恭弥の頭に、こつん…と軽く拳を当てる。
“悪戯すんじゃねーよ”そんな風に言っているようで、恭弥はますます不機嫌面になった。
(機嫌損ねちまったかな…?)
それ以来、口を噤んでしまった恭弥に、ディーノは片眉を上げて苦笑した。
恭弥が何を思っているのかは、何となくわかるが。
部下の手前もあるし、外では大人である見栄くらい張らしてもらいたい。
二人になればそれこそ全て明け渡すのだから、少しくらい我慢してもらおう。
それから暫く沈黙が続き、車が宿泊中のホテルに停まった。
駐車場から直通のエレベーターに乗る。
相変わらず仏頂面をしているが、恭弥は何も言わず大人しく着いて来ていた。
「ボス、飯はどーする?」
「適当にルームサービス取るさ。あと、オレが呼ぶまで人払いしといてくれ」
「……わーかった」
最後に「ほどほどにな」と、揶揄るように笑ったロマ―リオに、ディーノは苦い顔をした。
(あいつめ…)二人の関係を知っているこその冗談だが。最近露骨になってきた気がする。
やれやれ、とディーノは嘆息し、恭弥を促して部屋に入った。
「何か飲むか?」
ジャケットをソファの背にかけ、ルームサービスのメニューを手に取って座る。
ワインでも頼むかなー…と銘柄を見ていると、伸びてきた手がディーノの顎を掴んで強引に横を向かせた。
「いでで」
「余裕ぶってるつもり?」
低くそう言って、恭弥は細めた目で見据えてくる。
欲情している事を隠さない、熱っぽい瞳と声に、ディーノもつられて唾を飲み込んだ。
「…がっついてんなー、恭弥。ま…、久々だった上に寸止めしたから、仕方ないか」
「わかってるなら、続きやるよ」
単刀直入にそう言って、恭弥はベッドに歩いて行く。
せっかく久しぶりに会ったんだから、飲み物くらい…と思ったのだが。
持て余しているのであろう様子に諦めて、メニューを置いて恭弥を追う。
(いっつも、勝負するかヤるだけで終わるよなぁ…)
そんな事を苦笑気味に思いながら、上半身のTシャツを脱いで、ベッド脇にポイ捨てする。
ズボンのチャックを下ろした所で、ぐい…と引っ張られて、ベッドに雪崩れ込んだ。
覆い被さる恭弥の唇が、晒された肌に触れて強く吸った。
ちり…とした痛みを感じて、眉を顰める。
「痕…つけんなって」
胸の周りをなぞって行く唇に何度か吸われ、むず痒い感覚に息が上がる。
強い刺激に、確実に痕が残っているだろうなと感じてディーノが抗議しても。
恭弥は止める気はないらしく、そのまま下に降りて行った。
足の付け根の際どい所にもキスをして、殊更に強く吸う。
「……って…」
痛みに呻く声を耳に止め、恭弥はぺろりと唇を舐めて顔を上げた。
肌に色づいた数ヶ所の痕が、まるで花びらのように見える。
その仄かな色から、ある花が連想されて口端を吊り上げた。
一時期の嫌な記憶もあるが、もともとは好きな花だ。
自分がつけた痕を指で辿って、艶やかに笑みを浮かべる。
「この痕、誰にも見せないでね」
「……見せれるわけねーだろ」
つけた痕に再度口付けて、色を濃くしてから言う恭弥に、ディーノは呆れたように溜息をついた。
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お題がかするだけになっています;;うぬ…お題が主になってない…(笑)
続けて書いてないので、前と被ってたりします、すみません。通しで読みたくないです(笑)
たぶん、個々で読める…ハズ(爆)