10:壊れても、いいから。


達したばかりの、虚ろな表情のディーノを見下ろして、恭弥は唇を舐めた。
もう、何度シたかも忘れたし、身体も脱力感に見舞われているというのに。
それでもなお、湧き起こる欲求は一体どこから溢れるのか。
何事にも執着しないはずの自分に、これほど貪欲な部分があるとは知らなかったけれど。

…この人、だからなのか

恭弥は、うつ伏せて肩で息をしている彼を、ぐい…と、仰向けにする。
力なく潤んだ瞳、しどけなく解けた唇から濡れた舌が見えて。
欲情の痕跡が色濃く残る顔を見るだけで。
たったそれだけの事で、容易く鼓動が上がるのを感じていた。
認めたくなくとも、“彼が”欲しいという感情は、紛れもないのだ。
覚えた欲求を我慢する性質じゃない。
それならば、飽きるまで貪り尽くしてしまえば良い。

恭弥は、脱力した両足の間に身体を入れ、だらしなく広げられた足を抱える。

「……、ぁ…、も…む、り…」

その動作に察して、ディーノは緩く頭を降るが、押し退ける事はできないようだ。
朦朧としているくせに抵抗の言葉を吐く彼を、恭弥は細めた目で見据える。
毎回の事だ。いつもいつも…、最後には自分の欲求だけが残される。
あなたが越えない、その一線は。僅かに残された「理性」という名のもの。
でも、もう少し。あとほんの少し…。
恭弥は口端に笑みを浮かべると、拒否に構わず、閉じかけていたそこへ己を捻り込んだ。

「…っぅ、あ…っ!!…あ、ぁっ、ぁ―…っ!!」

ぼやけていた意識が急激に引き戻されて。
ディーノは溜まらず首を仰け反らせ、引き攣った悲鳴を上げた。
散々注いだ精のおかげで挿入に不自由はなく、ずぶずぶと埋め込まれていく。
侵入を拒むように内部が収縮していたが、そんな些細な抵抗は、軽く揺さぶるだけで溶けてしまった。

過敏になっている身体は、どれだけ疲弊していても快楽を生み出してしまう。
再び湧き起こる快感に付いていけず、苦しくてきつく閉じた目の端から涙が零れ。
「……アッ、ぁ…っぅ、あ、ぁ…っ」
と、意味を成さない喘ぎが引っ切り無しに上がった。
押さえる事の出来ない声が心地良くて、恭弥は何度も何度も突き上げ、熱い息を吐く。

「…壊れて…、しまえば…いい…」

眼下で喘ぐ身体を激しく揺さぶりながら、恭弥は擦れた声で囁いた。
辺りには軋むベッドの音と、淫猥な液音と、嬌声が交差していたが。
低くかすれた恭弥の声は、ディーノの脳内に確かに届いて、浸透していく。

「あなたの…理性も…、何もかも、…ぐちゃぐちゃに、壊してあげる…っ」

腰を抱え上げるように身体を押し上げ、接合を深くして、そう声を上げると。
ぎゅ…っと、閉じられていた瞼が上がり、蜂蜜色の瞳が見上げてきて。
縋るように手を伸ばして、僕の身体を掻き抱いた。

「…ぁっ、きょぅ…や、…っ壊れて、…ぃ…から…っ、もっと…っ」

自分の言葉をなぞらえて喘ぐ声に、背筋がぞくりと、震えた。
理性をかなぐり捨てて、快感だけを追う懇願の言葉。
あぁ…ようやく。“あなた”という箍が壊れた。
恭弥は全身を巡る歓喜に、恍惚の笑みを浮かべて。
今までより深い、快楽の波に身を任せて行った。







先に目を覚ましたのはディーノの方だった。
瞼を上げると、すぐ横にぐっすりと眠る恭弥の顔があった。
寝顔は年相応の少年のもので。昨晩の事がまるで嘘のように思えるが。

(いってててて…)

身体を動かそうとして、途端に響いた鈍痛に、しっかりと痕跡を思い知る。
度を越した夜の翌朝に後悔をしなかった事はない。
しかしそんな時は、自分にも責任があるのだから。
行き過ぎた恭弥を咎める事もできない。

会うたびに増長していく行為に、困ったものだと思いつつも。
その中に、普段わかりにくい恭弥の気持ちが垣間見えるものだから。
それが心地良くて、流されて止められない自分も同罪なのだ。

ディーノは起こさないように、そっと…額にかかる黒髪を退けて、寝顔を見つめる。
あどけない顔で眠る恭弥に、小さく笑みを浮かべた。
本当にあの時と、同一人物とは思えない。
ふと、比較して昨夜の恭弥を思い出し、ディーノは目を細めた。

“壊れてしまえばいい”

恭弥の低く熱い声が耳に残っている。思い出すだけで、身体が震えた。
ディーノは静かに吐息をついて、目を閉じる。
自分を壊し、本能で求めろとでも言うように、恭弥は理性を飛ばそうとする。
時に執拗とさえ言える行為は、常軌を逸していると思うが。
それがお前の望みなら、甘受して構わないと思えてしまう。

(おかしいのは、お互い様だ…)

ディーノは微苦笑すると、そっと恭弥に身体を寄せた。
起きてしまうだろうとは思ったが、構わずに腕の中に抱き込む。
包まれる感触に身じろいで、微かに声が漏れた。
朧気ながら覚醒したようだが、押し退ける様子はなく。
そのままもぞもぞと自分の位置を整えると、再びまどろみ始める。

寝ぼけているのか、面倒くさいのか。どっちかわからなかったが。
こうした事を許してくれるのが、何よりも嬉しくて。
ディーノは思い切り抱き締めたい衝動を押さえて、口元を緩ませる。


引きずり出されて曝け出したオレに、お前も自分を見せてくれるなら。
オレだけを見て、あの表情を見せてくれるなら。

オレは壊れてもいいとさえ、思えるんだ。

そんな事を考える事自体、もうとっくに、壊れているのかも知れない。
と、ディーノは苦笑一つして。
暖かな腕の中の感触を優しく抱き締めながら、再び夢の中へと落ちていった。


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2007.12.22

おおおおおおお、わった(笑)本当にやまもおちもいみもなくて、申し訳ありません…(…)
エロはエロだけで書くものではないと身にしみたお題でした(笑)
レパートリーが切れるっつー…(笑)流れは通しですがあまり続けて読みたくない代物に(笑)
さって、次のお題やるぞっと(笑)