4:閉じ込められた
我ながらドジを踏んだと思う。
思いっきり険悪な視線を受けとめながら、ディーノは冷汗を流していた。
ここは恭弥の学校の地下倉庫の一つ。風紀で没収した物を収納する場所だという。
応接室にあった大量のそれらを、運ぶように手伝わされたのはついさっき。
いつもは部下の草壁がやるらしいが、今日は居ないらしい。
他の部下を探すよりも、ちょうど良く現れたディーノにそれを押し付けたのは、面倒が嫌いな恭弥らしいといえばらしかったが。
「……どうしたらこういう事になるのか、不思議で仕方がないよ」
恭弥は嘆息しながら低く呟いて。
この人を使った事が間違いだったと、滅多にしない後悔をしていた。
「だから、すまなかったって…さっきから謝って…」
「謝罪で事態が解決するならいいけどね」
申し訳なさそうにしているディーノへ、恭弥がぴしゃり、と言う。
冷たく切り捨てる言葉に「ごめんなさい…」と小さくなる彼を見て、恭弥は憮然と目を細めた。
重い没収物を持たせて、案内したとこまでは良かった。
棚に乗せ終えて振り返ったディーノが、何故か足を縺れさせて、盛大にすっ転んだのだ。
恭弥は奥で古い物をチェックしていて、いつものやつか…と気にも留めなかったのだが。
入口付近で転んだ彼は、咄嗟に何かを掴もうとして扉に手がかかり。
掴み損ねて押したそれが、がっしゃん!と盛大な音を立てて閉じられた。
音の加減に恭弥は嫌な予感を覚え、頭をぶつけて蹲っているディーノを余所に戸口に駆け寄る。
扉を開けようとすると、がきっ…と手応えを残して止まり。恭弥は顔を顰めた。
予想は的中したらしい。これは、外の鍵がかかってしまっている。
鉄でできた大き目の打掛鍵は、通常閉めるだけではかからないが。
勢いをつけて思いっきり閉じた所為で、弾みで降りてしまったのだろう。
上げれるだけで簡単に開くのだが。いかんせん、内側からはどうしようもない。
何度か押したり引いたりしたものの一向に開く気配がなかった。
もしかすると、トンファーで殴れば隙間ができるかも知れないが。
学校を自ら破壊するのは出来るだけ避けたかったし、修理にも手間がかかりそうだから最後の手段だ。
「…っかしいなぁ…、普段はこんな事ねーんだけど」
扉の前で唸っている恭弥の後ろで、ディーノは頭をかきかき、ぼやいた。
それに対して、は――…と、盛大に溜息をついて。恭弥は振り返る。
「そうだね、1人のあなたに頼んだ僕が迂闊だったよ」
「1人なのは関係ないだろー?今日は調子が悪かったんだよ、…た、…たぶん」
怪訝そうに言う言葉が、恭弥の睨む視線によって尻つぼみになっていく。
いつまでも不機嫌で居ても仕方がない。
恭弥はしょんぼりしているディーノを放っておいて携帯を取り出した。
「……………」
まぁ、予想はついていたが。案の定、「圏外」の表示だ。地下だから仕方がない。
「あなたのは?」
「あ、そうか。―――、、、わ…悪ぃ…こけた時の衝撃で、壊れ…た」
慌てて胸ポケットから取り出したディーノの携帯の、無残にもディスプレイが割れているのを見て。
恭弥は「使えない…」と、呟きを残して戸口の横の壁にもたれた。
短い一言に、グサ…とダメージを受けつつ。
ディーノは「どうするんだ?」と、動きを止めた恭弥に問う。
「階段上の扉は開けっ放しだし、この扉の錠前は下に落ちているはず。だから下校時の見回りが気づけば、降りてくる」
「気づかなかったら?」
「あなたの部下が探しに来るんじゃない?」
「……ま、そうだろうなぁ…」
あいつらの事だ。伝えてあった時間に戻らなかったら、きっと学校まで来るだろう。
そう思えば。ずっと閉じ込められる事もないよな…と、ちょっとだけ気分を浮上させて。
ディーノは恭弥の方に近づいて行った。
「……反省の色が見られない」
表情に翳りがなくなったのを目聡く睨むと、ディーノはばつが悪そうに肩を竦めた。
「すまないって。でもおっもい荷物も運んだんだぜー?そろそろ機嫌直せよ」
「予期しない事で時間を無駄にするのが嫌なんだよ」
「んー…じゃあ、昼寝とか!お前、寝るの好きじゃねーか。オレ、誰か来ないか見てるから」
「―――こんな所で寝られるわけないでしょう」
「屋上で寝れる奴が良く言うぜ。何ならオレ、膝枕になろーか?」
そう言って笑って手を広げるディーノに。恭弥はイラ…っと、心中を荒げた。
ポジティブなのは結構だが。相手の心情は考えた方が良い。
とは言え、この人の明るい笑顔に釣られない輩は、あまり居ないだろうが。
(生憎。……僕はその、へらへらした顔は好きじゃない)
つられた事が無いとは言わないが。気分が悪い時はそれを増幅させるらしい。
とりあえず、目の前の原因に晴らさせてもらおう、と。
恭弥は固まった自分の前で不思議そうにしているディーノの胸倉を掴んで、思い切り引いて壁に押し付けた。
「おわっ!!…ぃ…、ってー!」
唐突の事に受身も取れず、さっきぶつけた頭をまたも壁に打ちつけ、ディーノは悲壮な叫びを上げた。
「時間を潰す、という所だけは買ってあげるよ。ただし、僕の気の済む方法で」
「って、おいおいおい!…待て、恭…やっ」
強打した頭を涙目でさすっている間に、恭弥は顔を近づけてディーノの首筋に噛み付いた。
こうしたパターンで行為に雪崩れ込むのは、何度も経験済みだった為。
ディーノは慌てて恭弥の肩を押し離そうとするが。
「…大人しくしてないと、咬み殺す…」
思いっきりドスを聞かせた低い恭弥の声に、口元を引き攣らせた。
別に脅しに慄いて屈したわけじゃないが。何となく今、本気で攻撃されたら死ぬかも知れない。
と、部下の居ない状態の自分を朧気ながら察して、押し退ける手が留まった。
「それで良いんだよ…、詫びも兼ねて付き合いなよ…」
引き攣った自分の顔を見て、舌舐めずりした恭弥の艶然とした表情に。
ディーノはさらに背筋が冷える思いだ。
しかし多分。ここで抵抗するより、大人しく甘受した方が怪我は少ない気がする。
今までの経験でそんな結論に達してしまう自分がちょっと嫌だったが。
きっと間違いではないので、ディーノは腕を掴んでいた手を離した。
「……っ…、ぅ」
そのまま壁に押し付けられ、べろ…とさっき噛んだ所を舐められると、首が竦む。
打算的な事を考えはしたものの。結局の所これを甘んじてしまうのは。
(これが嫌じゃないからなんだよなぁ…)
ゆったり着ていたシャツの中に、冷たい手が侵入して来て身体が震えた。
恭弥の手に慣れてしまった身体が、熱くなっていくのを感じる。
「…何だ…、結構乗り気だね」
侵入した手が胸の突起に触れて、それが固く尖っているのに恭弥は薄く笑う。
「……っ、…少し寒いだけだ」
「へぇ…?こんなに体温が高くなってるのに」
くい…と、シャツを捲り上げると、体温で香り立つ香水が鼻を擽った。
それに引き寄せられるように顔を近づけて、突起に舌を這わせる。
「ん…っ、ぅ…」
「確かにここは少し寒いけど…、あなたは暖かいよ」
ちゅ…、と吸い付いてから、唇に伝わる体温に口端を吊り上げる。
目を閉じて眉を寄せるディーノの顔を見上げた。苛々した気分はとうに消えている。
やっぱり気晴らしにはうってつけだな…と。恭弥はこの手段に確信を持つ。
取り合えず、軽薄な笑みを消せただけでも効果はある。
「ここも固くなってるけど、寒いだけ…?」
「……っぁ、…冷た…」
ジ…、とチャックを降ろして入り込んだ手が、下着の中まで潜り込んで、主張し始めるソコに触れた。
恭弥の冷たくなっていた指先が触れ、びくん…と腰が揺らぐ。
思わず引く腰をディーノの中心を握りこんで引きとめた。
「んっ…、ァ…ッ…」
「僕は少し寒いから…、あなたので暖めてよ」
「ぁ、ぁ…、っ…く」
上下に扱くと、ソレは小刻みに震えて脈打ち始めた。
冷えた手のひらに熱が伝わって、じん…と暖かくなってくる。
ディーノは壁に爪を立て、懸命に快感を堪えて膝を保っていたが。
恭弥の爪が先端を甘く引掻いた時、がく…と膝が崩れそうになる。
「っぅ…あっ!」
「…っと…、手…こっち」
ずる…と落ちそうになるディーノを、恭弥は自分の身体で壁に押し付け、引き止めた。
所在なさげに彷徨っていた彼の手を自分の肩に置かせて縋らせる。
支えができて集中できるようになったのか、押さえ気味の声が愛撫と連動して上がり始めた。
先端からは快感の証の先走りが流れていて、扱く度に静かな倉庫の中に響いている。
「ぁっ…ァ…ッ、く…恭弥…、も…、出…ちま…」
「もう?…ちょっと早いね。…密室で興奮した…?」
「んっ…ば…っ、んなんじゃな…、ぃっ…、ぁ…」
ぶるぶる…と膝が笑い始めたのを振動で感じ、確かにそろそろ達してしまいそうだな…と。
手の中のモノを促そうと握りなおした時。
カツカツ…と、階段を下りる音が聞こえた。
瞬間に恭弥はディーノのソレから手を離して、扉の方を見る。
「っゃ…、恭弥…何…で」
「しっ、誰か来た」
イきそうだった寸前で離され、思わず咎めるように出してしまった声を。
続いた恭弥の言葉に飲みこんでいた。
足音の後に「誰か居るのかー?」と、窺うような男の声が聞こえ。
恭弥はすかさず「居るよ。開けてくれない?」と答える。
身体の疼きに、ぼう…っとしていたディーノだったが、恭弥の応対にギク…っと、身体を強張らせる。
衣服を整える間もなく扉は開けられてしまい、慌てて手の平で唇を覆った。
こちら側に開く扉だから、影になって向こうには見えていないだろうが。
確かに近くに居る他人の気配に、ディーノは内心慌てまくった。
悟られてしまったら窺われてしまう。未だ整わない息を、必死で潜めて固まっていた。
「こっ、これは雲雀さん…っ!どうしてこんな所に」
「風紀の没収物をチェックしていたんだよ」
外から開けてくれた人物は、恭弥の姿を見るやいなや、慄いたように畏まった。
何事もなかったかのように答えた恭弥に「あ、では。後は自分が…」と、一歩踏み出そうとすると。
「入るな」
短くそう言って、恭弥は相手の腹部めがけ、拳で突き飛ばした。
「ぐ…ぇ…」
「ここの戸締りはやっておく。君は残りの見回りに行きなよ」
「げほっ…はっ、…はいー!!」
よろめいて向こう側に押し退けられた人物は、冷ややかな恭弥の声に引き攣った悲鳴を残し。
だだだだ…!と階段を駆け上がって去っていった。
恭弥はその背を見る事もなく、倉庫の中へと戻って来る。
「今の…風紀の奴?」
「みたいだね、顔は知らないけど」
「……お前、助けてくれた奴にあの仕打ちは」
「―――…今のあなたの格好…、見られたいなら呼び戻すけど?」
そう言って、上から眺めるような視線に。は…っと、ディーノは顔を赤らめる。
シャツは捲れ上がり、ズボンは下着ごと太股まで下がっていて。
あげくに、情事の色濃い朱に染められた頬と、未だ天を仰いでいた自身。
そんなものを誰が好き好んで晒す気になるものか。
「…誰がこんな格好にしたと…」
「僕だよ」
責めるような視線に、しれ…と答え、恭弥は再度ディーノに寄り掛かる。
「ちょ…、扉はもう開いたんだから、帰れるだろー!?」
「静かにして、また戻って来ても知らないよ。…大体、こんな状態で歩けるなら放っておくけど?」
「う゛……」
確かに、散々煽られた身体はきちんと区切りを付けるまではどうにも力が入らなさそうだ。
開け放たれた扉を横目で見つつも、ディーノは恭弥が近づくのから逃げられそうにはなかった。
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最初はエレベータかなーって普通に思ったんですが(笑)エレベータH(笑)
でも何か芸がないので(芸て)ディーノのドジっ子ネタにしてみました(笑)
この後は最後まではヤらないと思います、たぶん(笑)応接室には連れ込みますが(爆)
一応、表では控え目なんですよ。たぶん(笑)(…)