5:浮気疑惑
暗闇に染み込んで行く淫猥な音。
くちゅくちゅ…と湿ったそれが不規則な間隔で流れる。
その音が響くたびにベッドの背に幾重にも置かれたクッションに凭れた身体が、小刻みに震えた。
「…も、いい…加減に、してくれ」
途切れ途切れ押さえられない嬌声の合間に掠れた声が聞こえる。
立てた両膝の間、圧し掛かるような格好で収まっていた彼は言葉にゆっくりと顔を上げた。
「もう我慢できないの?」
嘲笑を口元に浮かべ潤んだ瞳を覗き込む。
その間も下肢に触れた手は蠢き、屹立した欲望は存在を誇張するように脈打っていた。
「まだ僕は何もしてないのに」
「……ぁ…っ」
自分が吐き出した液体と共にきつく握り込まれ、たまらずに首を仰け反らせて呻いた。
見せた喉元をちゅ…と吸い、薄く痕を残すと更にもう片方の手で根元に下垂するそれを強く揉みしだく。
「…ぃっ…つ、……ぁ…う…っ」
途端、跳ね上がる腰。
慣らされた身体は乱暴に嬲られる行為をも、快感へと変えてしまっていた。
過敏なその反応に恭弥は薄く笑うと、乾いた唇をぺろりと舐める。
「…や、め……んで、オレ…だけ…」
それでも搾り出す抗議は、双丘の奥に挿し入れられた指に途切れ最後まで言わせてもらえない。
薄く瞳を開けるものの睨む気力すらなく、ぼやけた視界に笑み自分を眺めている彼を映した。
もう何度達かされたかわからなかった。
呆れる程に飽く事なく、何度も何度も自分に触れては高みへと導く。
無理やり解放させられ続けた身体は重くて…縛られていた腕が解放されても押し退ける事も出来ない。
部屋の中はその特有の、噎せ返る濃厚な匂いが充満していた。
「た…頼むから、もう……や、イヤ…だ…っ」
またも追い上げようとするその指から逃れようとするが、言う事を聞かない身体は簡単に押さえられてしまう。
行き過ぎた快楽が苦しくて苦しくて。
すでに痕になっている涙の筋を再び透明な雫が流れた。
両腕に縋り、濡れた瞳で懇願しても聞き入られず。
緩んだ内部にある指は更に寛げるように掻き回す。
時折り引っ掻くように刺激され、我慢も出来ない身体は促されるまま数度目の精を放った。
「…は…っ…ん、あ、ァ…っ」
長く息を吐いてぐったりと脱力した身体を投げ出す。
数回に渡る放出のせいで幾らか薄くなったその液を指に絡ませると、恭弥は自らの口へ含んで舐め取った。
その所作をぼう…っと眺めながら、治まらない身体の疼きにシーツを緩く握る。
これだけ達かされて昇り詰めたというのに…足りない。
常ならばとっくに与えられているであろうソレがないだけで、こんなにも物足りなく感じるなんて。
数え切れない程に身体を重ね組み敷かれた事で、自分は心までも女性と化してしまったのだろうか。
甘んじて受けているこの状況では否定する要素がないな、と虚ろな頭でぼんやりと考えた。
「…なんだ、まだ余裕があるんだね」
一瞬の気の逸らしを聡く感じ取って瞳を覗き込んでくる。
笑う気配があったのに、合わせたその眼差しは感情無く、冷たい。
見据えられ、背筋を冷えた汗が伝い落ちた。
情事のさなかだというのに、どうしてこんな目をしていられるのか…
「…お前、何を怒って…るんだ…?」
朦朧とした頭が冷水を浴びたように覚醒する。
こくり…と唾を飲下し、様子から思ったままを口に出す。
そうか、どうして気づかなかったんだ。今までのこいつの行動は――
「――…わからないんだ?」
否定されない応え。
窺うような視線に返された苦々しい表情。
やっぱり…と思いつつも言われたように原因は思い当たらなかった。
知らないうちに機嫌を損ねるような事をしでかしたのかも知れない。
しかし、勝手に怒られていても対処のしようが無いわけで。
暫く思いを巡らせて考え込んでいると諦めたような溜息が降りて
「…あなたが悪いんだよ」と、再び行為を再開しようとする恭弥の手を掴んだ。
「待て…って!…一体、何がそんなに気に入らないんだ?言わなきゃわからないぞ?」
必死で畳み掛けるように聞くと、暫く弄って気も落ち着いていたのか一応の制止はしてくれた。
そして憮然とした顔になり、言い難そうに口を開く。
「女の…匂いなんてさせてるからだ」
「……は?」
「部屋中、香水の匂いが満ちてたよ…今はもう、あなたの匂いしかしないけど」
嫌そうに吐き出される内容を頭で噛み砕く。
香水?確かに、思い当たるふしはある。だが、それは――
(それってつまり…、恭弥が)
怒っていた理由に気づいた瞬間、勘違いを正すより愛しさが込み上げてどうしようもなくなってしまった。
思わず、その身体を抱きしめ奪うように唇を合わせる。
「………っ…」
唐突過ぎるその行動に流石に驚きを隠せずに目を見張り、恭弥は腕の中から逃れようともがく。
(さっきまで疲れ果てていたくせに、オレも現金だよな)
足掻く恭弥を押さえ込み、文句を言おうとする声ごと吸い込んで深く絡めた。
引く意思がない事がわかると、諦めたのか腕に込めていた力を抜いて肩で息を付くようなしぐさ。
そのまま重い身体をずり上げ、身体を押し倒す。
覆い被さり暫くその甘さを堪能してから、シーツへと沈み込ませた恭弥を見た。
如何するつもり?見上げる瞳が言葉無く聞いてくる。
「続き、しようぜ…?」
怪訝そうな視線に微笑みで返すと、未だ少しも乱れていない恭弥のズボンに手を這わせた。
こちらの意図を図っているのか止める事無く、恭弥はその動きをじいっと眺め、させるがままにしている。
抵抗が無いのを良い事に、手を滑らせてズボンの中…その中心へと赴くと。
「……、何だ」
その手に触れる温度に驚き、また少しほっとして息を吐く。
てっきり、何の反応もしていないと思っていたが。
指先に感じる確かな熱さ。冷静な瞳とは裏腹にその中心は堅く、欲を顕わにしていた。
逆手でソレを掴んで引き摺り出すと、脈打ち主張する欲望が見える。
「……っ、…ん…」
直接触れられて身動ぎし、起きようとする恭弥を自分の身体で遮り阻んだ。
―――吐息が熱くなる。
怒っていた理由…彼がそんな想いを抱いてくれるという事実に。
先ほどの考えなんて馬鹿らしく思えていた。
浅ましくても、いい。…欲しいと言う欲求を押さえられない。
だから…
屹立する肉の塊に片手を添え自分の体重を立膝で支えると。
自ら、その奥へとあてがい先を触れさせた。
先端のヌメリが秘部に擦れ、ぞくりとした震えが背筋を駆ける。
「ちょ、…っと、待っ…」
意図を知って慌てて止めようとする恭弥を、添えた手のモノを擦る事で静止させ
「大人しく、してろ…」と情を孕んだ声で囁くと、支えていた力を抜いて身体を沈ませた。
「……っん、く…っ」
突き刺される感覚に引き攣れた喘ぎが漏れる。
ずぶずぶと埋め込まれる質量に体重を支えている膝が崩れそうになる。
震え、笑う膝に懸命に力を入れて…ゆっくりとその身を沈めて行った。
圧迫される内部に眉を寄せ苦悶の表情を浮かべた。
しかし、やっと感じられた恭弥の熱で…苦しさよりも歓喜に、頭が溶けてしまいそうだ。
狭い肉襞を掻き分け、やがて全てを呑みこむと腰が完全に密着した。
体重をかけないよう両脇に肘を付いて俯き、挿入で強張った全身の力を抜こうと荒く呼吸する。
「……やって、くれるね…」
掠れた声に視線だけを上げると、高潮させた顔と吐息に恭弥も感じている事がわかった。
その顔を自分がさせている事に。
恭弥が自分の行動で変化してくれている事に、愉悦を覚えていた。
自然、喜びに心が震える。
「お前が…させ…たんだから、な……?後でちゃんと、言い訳…するから」
今は、感じさせてくれよ…
途切れ途切れに紡がれる甘い言葉。語尾は音無く息だけの声を喉から絞り出した。
く……と、両膝と腕に力を入れて僅かに身を浮かせる。
身体が上がった分、当然…納まっていたものもずるりと外気に触れて…
「…うぁ…っ…、ぅ…んん…」
引き摺り肉の擦られる感触に悲鳴にも似た喘ぎが漏れ、半ば引き抜いた状態で停止する。
小刻みに震える全身…自ら引き起こした感覚に落ちてしまいそうだ。
「どうしたの、出来るんだろ?自分で…」
暫くその体制で荒く息を付いていると、口端を上げ下から見上げてディーノの頬を撫でる。
余裕の笑み。…その顔を歪ませてやりたい。
……こいつも溺れさせて、やる。
こくん…と唾を嚥下し息を整えると、更に身体を持上げ、入口に引っ掛かる部位を感じた所で…降ろした。
自分の体重による常よりも深い挿入感に、苦痛と甘さの混じった嬌声を漏らし、身体を仰け反らせる。
それでも、その感覚をもっと、もっと味わいたくて。
力を振り絞って懸命にその行為に没頭した。
繰り返す単純な動作に次第に快感が深く、内に溜まっていくような錯覚が襲う。
「……ん…ぁ、はァ…、…ふ、あぁ…っ」
耐えられない声をしきりに上げ憑かれたように快感を貪っていた。
自ら跨り淫らに身体をくねらす、そんな痴態をもう恥ずかしいとか考える余裕もなく。
体内の脈動を感じるたびに嬉しくて…共に追い上げようと無意識に内襞が萎まされ摩擦を強くする。
「……く…っ」
やわやわと絡みつく柔襞の感触に、小さく呻く声が聞こえた。
奥に当たる灼熱のモノがドクドクと脈動している。
同じように感じ入ってくれている事がわかり…嬉しさに更に抽挿が激しくなる。
「あぅ…ん、…あ、あぁァっ!!……きょ…や…ぁっ」
「………っぅ…、ぁ」
一際高い悲鳴と共に、2人はほぼ同時に精を放った。
せわしい呼吸音が重なる。
ぎゅう…とシーツを握り締め熱を受け止めていたディーノは、ぶる…と、小さく痙攣すると力無くその胸へ顔を埋めた。
……と、息を付く暇もなく、その身体が横に倒される。
「……ん、ぅ…っ」
達したばかりの敏感な内部が体位の変化で擦れ、びくりと反応する。
ぐったりとした身体を仰向けにし、片足を抱えると。
「……されるままじゃ、終わらないよ」
擦れた息と共に火照った声で囁き、艶みの増した笑みを浮かべた。
頬が上気して漆黒の瞳が欲に濡れている。
見据えるその視線にディーノはぞくり…と、身体に微量の電流が走るような感覚を覚えた。
身体は疲労しきっていて、もう休息を求めていると言うのに。
与えられる快楽を待つ自分が、居る。
足を大きく開かされ、恭弥が身体を引くと、ぐちゅり…と、最奥に注がれた白濁が接合部から溢れ出た。
濡れそぼった秘部から粘着質な液音が耳に届く。
それはすでに羞恥よりも悦楽を煽る材料にしかならなかった。
情液と共に自身を引き摺り出すと、先端で塗り込める様に秘口を撫でて、嬲る。
微妙な感触が擽ったくて僅かに腰を引いた瞬間に、蜜が流し続けているそこへ再び肉棒を突き入れられた。
「……ぃ…ぁ…っあぁ…っ!!……く、…んん…っ」
その侭激しく抜き差しされて、灼熱の快感に脳は蕩け、焦点の合わない瞳は空を彷徨う。
動く力などもう何処にも残っていないはずなのに、打ち付けられる度に促すように腰が蠢いていた。
狂おしいまでの快感を、恭弥の背にしがみ付いて受け入れる。
無意識に縋り、求め…溢れる愛欲に溺れていた。
やがて訪れた快楽の波に飲み込まれ、思考は闇へと沈んで行った…。
* * *
「……最近、立ち寄った店で見つけたんだ」
複雑な顔で小さな子瓶を見る恭弥にだるい頭を何とか起動して、説明をする。
当然、起き上がれるような状態じゃないのでベッドに寝転がったままである。
それでも彼の表情は良く見える場所にあり…。
「僕に…って、…事?」
「そうだぜ」
肯定の言葉に、憮然とした顔。
自分の勘違いを素直に認めたくないのだろうか…、そんな様子が見て取れる。
「女じゃあるまいし…」
香水貰って喜ぶと思うの?
誤魔化す為か照れ隠しか、本人にしかわからないが。心底呆れたような、そんな声。
それでも、それを返すでもなく眺めている恭弥に……自然と笑みが浮かぶ。
「何、笑ってるの」
それを見咎めて近寄ってくる。
ますます険しくなる顔を見ても、口元の笑みは消す事が出来なかった。
「…何か、妙に気に入っちまってさ。お前にやろうと思っただけだよ」
おかしいか?と、ベッドサイドに座り自分を睨んでいる恭弥に聞いた。
恭弥は素っ気無く「おかしいね」と言うと、とそっぽを向く。
くすくすと笑ったまま、それ以上何も言わないディーノに溜息を付いて。
渋々、小瓶の蓋を開けて香りを空気に触れさせる。
それは、部屋に満たされた彼の匂いと微妙に混ざり合い。
何故か懐かしい…、そんな香りに変わっていた。
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苦し紛れ…(笑)すみません、実はこれ前ジャンルの使い回しネタです。
ネタというか8割使いまわしてます。えへ(爆)知ってる方は大目に見てください。
同一人物なので、パクりではありません(笑)
名前と二人称を変えて、文章も多々直しましたが、驚くほどそのまま行けるのが笑えます(笑)
あまりに日の目を見ないサイトなので、勿体無くて持ってきちゃいました。