お前に頼みがある……

私は身体をベッドに深く横たえ、上から見下ろしている少年にそう呟いた。
随分前から考えていた事、長い間、躊躇い…言えなかった願い。
今も尚、口に出して良いか逡巡していたが……
「……何…?」
落ち着いた穏やかな笑みを浮かべる彼を見上げ、心配など無用の事だったと感じる。
「私が居なくなった後に……これを、捨てて来て欲しい……」
水の流れる場所に――
私はそう小さく言ってある場所を指し示した。
そこには、鮮やかな青の装飾を施された剣があった。長年の時にも褪せない、静かな光を湛えて。

視線を巡らせそれを見…少年は暫くの間、返答を考えているようだった。
辺りを静寂が包む……私は静かに待っていた。そんなに時間は残されて居なかったが、それくらい待つ事は許されているようだ。
すぐに返事が来ないのもわかっていた事だった。この間こそが…2人の長い時を現しているからだ。
そして……

「…わかったよ……」

皺の刻まれた頬に、滑らかな指が触れる。私に頷いて微笑む少年に安堵して微笑み返した。
彼も私の思いをわかってくれている。心配だった「後」の事も…これで安心できる。
「僕に任せて…静かにお休み……」
好きだった綺麗な声で囁かれた。
見るものの心に暖かさをもたらすような、優しい優しい笑みを浮かべて。
その微笑みを見れる事に幸せを感じながら、私は深い眠りについた。


少年は緩やかな流れの前に居た。
最後の望みを叶える為に、その剣を腕に抱き締めて。
ふわり…重力を無視して剣は宙に浮かび上がる。ふわふわと宙を舞うように進み、やがて水の流れへと消えて行った。
「アンタの想い…確かに届けたからね……」
ちゃんと辿り着くんだよ……
既に見えなくなっている「剣」に見送りの言葉をかけた。

「最後まで勘違いしていったけど……」
アンタらしいよね……
くすり……と笑うと、振り返って……自分を待つ彼の元へと戻って行った。

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