Voice


その声は唐突に響きだした。

静かな静かな深い夜。

いつもと何も変わらない、面倒な仕事を終えて、義務的に寝床について。
目を閉じようとしたら、静寂を壊す一滴の波紋。

それは、空気を震わせるものではなく。
音として捉えられるものでもなく。

頭の中に直接飛び込んでくる、その 「声」 は

引き裂かれるような、悲痛の叫びだった。


それからというもの、声は毎夜続くようになる。
誰に問いてもそんなものの存在を認められず。

それを聞いているのは自分だけなのだとわかった時。
眠れぬ夜を共有させられているのが、自分だけだと知った時。

どうにも、腹立たしく。


煩くて


煩くて


その原因を突き止めに行った。



声を辿っていけば、居場所は容易に判明した。
その場所は到底、人が入り込むような場所ではなく。
安らぎを覚えれるような場所でもない。


声の主は、城裏の城壁の隅にうずくまって。
ぼろぼろのマントを身体にまきつけて。

予想通り、泣いていた。


そいつは、現れた自分を本当に驚いたような顔で見上げていた。

いつもは決して見せない、弱さをその瞳に浮かべたまま。
隠す事もできずに見開いて。
溜まっていたそれが、頬に流れ落ちた。

そいつが行動を起こすよりも早く、座り込んだ前に立ち、見下ろすと。
呆けた間抜け面に向かって、呟く。

「……アンタ、煩いよ。どうにかしてくれない?」


それが、僕たちの始まりだった。

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