ビクトールと別れ今度は一直線に酒場への道を進んでいた。
転移魔法は相変わらず使う気がないらしい、すたすた歩くルックに俺は……
「なぁ……」
と、聞き取れないくらい小さな声で呟く。
「何?」
「………何時までこうしてるつもりなんだ?」
俺は恥ずかしそうに声を潜めてルックを見た。
さっきから俺は居心地が悪くて仕方が無い。
それもそのはず、ずっと抱き上げたままの格好で歩いているからである。
存外に力持ちなんだな…と、感心してる場合じゃなくて。
「アンタの歩幅に合わせてたら日が暮れそうだからだよ」
「……だったら転移すりゃあ良いだろうが…!」
さらりと言うルックの髪を握って先から思っていた事をついに口に出した。
「知らないの?」
「…何が??」
「あれって少なからず身体に負担が掛かるんだ。今のアンタだと…相当、疲れるよ?」
淡々と言うルックを大きな瞳できょと…ん、と見つめる。
「そうなのか?」
「わざわざ何で歩いてると思ってんの?」
それはお前がワザと――と、言おうとした言葉を飲み込んだ。
そう言えば転移魔法を使われた時、僅かだが身体に脱力感が残っていた事を思い出したからだ。
「……ごめん」
自分の身体を心配してくれているルックに、疑っていた事を素直に謝る。
唐突な謝罪に何も問わず、ルックはにっこりと微笑んだ。
常に無い柔らかな笑みにどき…とする。
理由の「1つ」でしかないけどね……
心でほくそ笑むルックの言葉は、俺には当然聞こえなかった。
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