俺たちはシエラの私室の前に転移魔法で移動をした。
これくらいの年ならば魔法の影響もさほどないらしい……とはいえ、疲れる事は疲れるが。
迎え出たシエラは起こされて不機嫌な様子だったが、俺の案で差し入れた上質のワインを見るところりと態度を変えて招き入れてくれた。
「成る程、のう……」
一通りの話を聞いて、ふむ……と口元に指先をあて、座ったまま目の前にちょこんと立った俺を見上げる。
不可思議な現象にもさほど驚いた様子が無いのが流石というか何というか……そんな事を言ったら今まで俺に会った人物らにも言えるのだが。
「おんし、妾と話した事さえ忘れたのかえ?」
「面目ない……どうも飲み過ぎていたようでな、さっぱりわからん」
「では、おんしに預けた酒の事も覚えてないのかえ?」
「………酒?」
やはり身に覚えの無い事だった。疑問系での返答にシエラは呆れた溜息をついて説明を面倒くさそうに始める。
「あの夜はビクトールのもとに出向いたのじゃ……生憎あやつは部屋に居なかったのでな。酒場におったおんしに妾の酒を置いてきてもらおうと思うて渡したのじゃ」
「…もしかして、あの見知らぬ果実酒の事かな」
かいつまんで話す内容にふと思い当る所があった。
一度部屋に戻って土産のワインを探した時に、自分も知らない瓶があるのを不思議に思ったのだが……
「そうじゃ、それの事だろうて……原因はそれくらいしか思いつかぬ」
「……あの酒に何かあるのか??しかも預かった酒を勝手に飲むとは、思えないんだが……」
語尾は幾分か弱い。
何分、しこたま酔っていたらしいから強くは言えなかった。
「ちょっとした駄賃のつもりで1杯くらいなら飲んでも良いぞ、と渡したからの…」
「そうか…って、だからあれは何なんだ??」
「妾用に作らせた、ただの美容酒じゃ。まさか人間にそんな作用があるとは思うても見なかったが……それまで飲んだ酒の成分が丁度混ざって何らかの効果を生み出したのやも知れぬ」
淡々と言うシエラに、俺は当分禁酒しようと心に固く誓った。そんな阿呆な事で俺は……
それで、治す方法はないのか……?と、ぐったりとしながら聞いてみるときっぱりと返される一言。
「知らぬ」
「そ、そんな……どうにかしてくれよ……」
取り付くシマも無い彼女に情けない声で言うと、考える素振りをしてから口元に笑みを浮かべた。
「聞いた所によると昨日よりは成長したそうじゃのう……?だったら、昨日から今日にかけてした行為を繰り返したらどうじゃ?それが身体のバランスを元に戻そうと作用したのかも知れぬ。おんしらが昨晩…何をしたのかは知らんがのう……」
俺とルックを交互に見やってシエラはにっこりと微笑んだ。
その言葉に含まれる意味に、さぁ−…と青くなる。
「そんな馬鹿な!!」
「その行為が酒を薄めてくれたのじゃろう……何じゃ?出来ないような事なのかえ?」
内容を問うように見つめるシエラに、ぐ……と、俺は言葉に詰まった。
「助言、どうもありがとう……」
返す言葉に困っていると、戸口近くに立っていたルックが俺の横に歩みより、普段見せない極上の笑顔で礼を述べた。
「構わぬ、妾も無関係ではなかったようじゃからの……試して見るが良い。それでも戻らぬ時は、またここに参るが良いて」
同じように微笑み返すシエラ。
その間で……俺は肩を落として溜息をつくしかなかった。
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