「よぉ、ツナ!遊びに来たぜ!」
「わわわ!ディーノさん!?よけてー!」
「へ?」
玄関から階段へ上がりかけていたディーノは、ツナの悲壮な叫びに顔を上げた。
もし、ここに彼の部下が居たならば。華麗な鞭さばきでそれを回避できただろうが。
不運な事に今日は彼一人での来訪だった。
へなちょこ状態の彼は、階段上から振ってくるバズーカの弾を呆然と眺めるしかなく。
「うわー!!!」
当然命中し、しかもそのままの勢いで階段下へ転げ落ちてしまった。
「わーー!ディーノさーん!!大丈夫ですか!」
ズダダダダ!…と盛大な音と共に転げ落ちた彼に、ツナは慌てて駆け寄る。
もくもくと煙に駆け寄りながら、はっと気がついた。
(あ、バズーカ当たったって事は、10年後のディーノさんが…!!)
そう思ってドキドキしながら、煙が消えるのを見つめていると。
現れたのは、自分と同じくらいの少年が、痛そうに頭を抱えている姿だった。
頭をさすりながら顔を上げた面影に、ツナは愕然と目を見張る。
「んなー!?え、えー!もしかして、ディーノさん!?!?!」
「いってぇー…、ん?何言ってんだ、ツナ!もしかしなくても、オレだぜ!」
「バズーカの故障だな」
あわあわしているツナの背後から、ひょいっとリボーンが現れて呟く。
「えー!?故障って!!じゃ、じゃあ、10年前の…」
「ランボの奴、ぶっ放す前にこけて床にぶつけてたからな。それの所為だと思うぞ」
そんな犯人のランボはすでに泣き逃げしてどこかに行ってしまったが。
リボーンは「おい、ディーノ」と言いながら、てててと少年の前に出ると、素早く飛んで彼の顎を蹴る。
「んぎゃ!…いってー!!何すんだ、リボーン!!」
「やっぱりな。オレがわかるって事は、お前、中身はそのままだな」
「えええーー!?って事は姿だけ10年前ってこと!?」
冷静に分析するリボーンに、ツナは未だ慌てたままで叫んでいる。
その横で、事態を掴めなくて、金髪の少年はきょとんとしていた。
「はー?さっきから何言ってんだ。オレ、何か変かー?」
「あ、あのですね、ディーノさん」
痛そうにいろいろさすりながら見上げる彼に、ツナは説明の為に、鏡を取りに行った。
*
「ふーん。その何とかバズーカってのに当たって、こうなっちまったわけか」
手鏡を渡されしげしげと自分を見ながら、ディーノは呟く。
確かに、映っている姿は記憶にある昔の自分だった。
「10年ってーと…、ツナより年下だよなー」
「あ、あれ…でも、ディーノさん。俺とあんまり目線が変わらないです、ね」
そう言われて、並んだツナと視線を合わせると、確かに少し低いだけで差はあまりないようだ。
「ん?そーだな。でも向こうじゃ小さい方だったぜ?オレ」
自国での事を思い出して言う彼に、ツナは(外人なんてキライだ…)と、肩を落とす。
「よし、事態はわかった。とりあえずオレは隠れる!」
「えええ、ディーノさん?なんで隠れるんですか?」
「こんな姿、部下に見せれねぇ!それに、あいつにもみつからないようにしないと…」
「あいつ?」
そこで何となく声を潜める彼につられて、ツナも恐る恐る聞く。
ディーノが答えるより先に、ひょい、と今まで何処かへ行っていたリボーンが現れ、口を挟んだ。
「ヒバリだな。」
「えっ!ヒバリさん!?」
「ははは、リボーンはさすがに鋭いなー、その通りだぜ」
さらりと答えるリボーンに、ディーノは明るく笑って肯定した。
「なんで、また」
「このナリじゃ戦っても渡り合えねぇからな。日頃の仕返しを一気にされそうだ」
ディーノは身震いするように両腕をさする。
そして「オレはまだ死にたくない!」と付け加えた。
「そ、そんなに…」
ディーノさんでさえそこまで避けようとする、最強の風紀委員長に、ツナは改めて恐れを成して。
二人して青ざめる。そこへ、無情なリボーンの飄々とした通達が入った。
「とりあえずヒバリはオレが呼んどいたぞ。」
「んな!何てことするんだリボーン!」
「そうだよ!わざわざうちに呼ぶなんて!」
「面白いものが見れそうだからな。これも試練だぞ。ディーノ」
一斉に喧々囂々と批難を散らす二人に、リボーンは淡々と答えた。
どうやら先ほど居なかった間に連絡を取っていたらしい。
二人の批難は続くが、リボーンはしれ、と受け流している。
そんな事をやっている間に、その人物は来てしまったわけで。
「やぁ、赤ん坊。わざわざ来てあげたよ」
バイクの音と共に、窓から現れたのは、渦中の人、雲雀恭弥。
リボーンの呼び出しだからなのかどうなのか。いつもより機嫌が良さそうではあったが。
それでも恐怖の風紀委員長である。ツナはびびりまくって引きつっていた。
「ヒィィィィ!ヒッヒッ、ヒバリさん!」
「変な呼び方しないでくれる?草食動物」
「ちゃおっス、ヒバリ。良く来たな。」
「面白いものがあるって言うからね。つまらなかったら咬み殺すよ」
「オ、オレは用を思い出したから帰るぜ!」
リボーンと恭弥が話している間に、ディーノがそそくさと出ていこうとした瞬間。
「待て、ディーノ。試練だぞ。」という相変わらずなのほほんとした声と共に、
ズガァァァン!!!…と銃声が発せられた。
「ぎゃーっ!じっ実弾じゃねーかよ!!殺す気か!」
奇跡的に足を滑らせてかわしたディーノは、部屋の壁の弾痕を見て叫ぶ。
しかし、そこでリボーンの横に立っていた恭弥の眉が、ぴくり…と動いた。
「…これが?」
へたり込んでいた少年の方を見て言う恭弥に。
呼んだ名前に反応しての問いらしい、と、リボーンは判断して「そうだぞ」と頷いた。
「わけあって縮んでいるが、修行と称してお前をボコってたディーノだ。」
飄々と続けるリボーンに、ツナはサァァ…と、青ざめる。
(ひぃぃぃぃ!…なんて酷いばらし方を!)
そして同じように慌てているかと思いきや、そこはやはり、中身は元のままの貫禄か。
ディーノは、ばれてしまっては仕方ない、とばかりに腹をくくり逃げるのを諦め対峙していた。
ツナとの差はあまりなくとも、恭弥と比べるとかなり自分の方が低くい。
立ち上がっても見上げるという奇妙な感覚を覚えつつ、しげしげと眺める恭弥の視線を、真っ向から受けとめる。
「ふうん…」
「…なんだよ」
眼光鋭い眼差しにも臆する事無く、ただ少しだけ憮然とした様子の少年を見て。
確かに面影がある事を確認した恭弥は、溜息をついた。
「あなたも、草食動物になったんだね」
「はぁ?」
恭弥の言っている意味はツナにはわかったが、ディーノは首を傾げるばかり。
(ディ、ディーノさんを草食動物呼ばわり…!)
でもさすがの彼もあそこまで縮んでしまっては仕方ないかと、ツナはドキドキしながら動向を見守っていた。
おそらく、この中で一番動揺しているのは当事者ではないツナなのではないだろうか。
そんなツナの見守る中、二人の会話は続く。
「僕は草食動物には興味がないんだ」
「良くわからねーけど。きょーみないなら、放っておいてくれ」
「興味ないけど。今のあなたを見てると、無性に咬み殺したくなる」
「あっ、あのなぁ!」
「でも、今のあなたは弱いよね」
「…認めたかないが、違いねぇ。だから今は戦っても面白くないぜ」
「そうか、戦っても面白くないなら一方的に虐めればいいんだ」
ど、どんな流れだ…!!と、突っ込みがシンクロしたのは、ディーノと聞いていた沢田綱吉。
リボーンは何故か頷いて。この会話をどう結論付けたのか。
「それじゃあ持って帰っていいぞ。ヒバリ」と締めくくった。
「ふうん…、ま、くれるなら貰って行くよ」
「ああ。遠慮は要らねーぞ。」
「飽きたら、今度は君を咬み殺しに来るよ。じゃあね」
そう言うと、ディーノは、ひょい…と抱き抱えられてしまう。
呆気に取られている間に、恭弥は再び窓から去って行った。
「うぎぁああぁぁぁぁ……」
後に残ったのはバイクの残音と悲痛な少年の叫び。
「ああぁぁ、ディーノさん連れて行かれちゃった…」
「キャバッローネは終わったな。」
「縁起でも無い事言うなー!」
厄介事が終わったとばかりに茶をすすり出すリボーンに、頭を抱えるツナであった。
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