そうして連れてこられたのがあるマンションの一室だった。
恭弥について入り中を伺うが、他に人の気配が居ない。

「一人暮らしなのか?」
「この部屋はたまに使ってるだけだよ、家は違う」

家以外に何で部屋が?と普通は不思議に思う所だが。
ディーノも各地に拠点があるので、「ふーん」と頷くだけだった。
この辺り、常人との感覚が違う二人である。

促されるままに部屋に入り突っ立っていると、恭弥はちら、と見ながら「座れば?」と言った。
中央に小ぶりのソファがあったが、何となく座るのを憚られて、
それを背に絨毯に胡座をかいて座る。絨毯は分厚い起毛のもので、座り心地は悪くない。
恭弥は咎める事もなく、自分はソファに深く座り、眠そうに欠伸を噛み殺していた。

ツナの家では、すぐにでも咬み殺されそうな流れだったので構えていたのだが。
普通にただ部屋に案内された状況に、ディーノは少し面食らっていた。

「なぁ…、何でオレを連れて来たんだ?」
「その姿では帰れないでしょ?戻るまでここに居れば」

そっけなくも、そう言われ、ディーノはきょとん、と目を瞬かせる。
確かにこの姿では戻るに戻れず、どうしようかと思っていた所ではあるが。
まさか恭弥が匿ってくれるとは思わなかった。
てっきり、特訓時の仕返しでもされるかと思っていたのだが。
(いいとこ、あんじゃねーか)単純にそう思うと、少し気持ちが浮上した。

それにしても、と恭弥の声が近くなる。
横を見るといつの間にか同じように下に座った恭弥が、自分を覗き込んでいた。

「ずいぶん小さいね。いくつくらいに縮んでるんだろう」
「10年前らしいから、お前より少し下…くらいだな」
「ふうん。いつ元に戻るの?」
「そんなのオレが聞きたいぜ…」

げんなりと肩を落として溜息をつく。
どうしてこうなったのか、等は興味がないのか聞いてこない。
恭弥にとっては目の前の現象が全てなのだろう。
まるで観察でもするかのようにじろじろと見られて、居た堪れなかった。
いつもはこちらが視線を向けても、無視するくらいなのに。

ディーノは気まずそうに顔を逸らして、合っていた視線から逃れた。
すると、くい…と肩を引かれ、後ろから腕を回される。

「きょ、…きょーや!?」

唐突の事に慌てて声を上げるも、そのまま引き寄せられてしまい。
恭弥の膝の間に身体を置いて、ぎゅう…と、抱き締められる。
納まる加減に、現在の体格の差がわかった。ちょうど、常を逆転したくらいだろうか。

「…納まりが良いね。この頃のあなたはこんなに小さかったんだ」
「あ、当たり前だろ…、昔からでかかったわけねーし」

肩口から聞こえる恭弥の声に、鼓動を抑えつつディーノは答える。
一体、どうしたんだろうか。いつもは、オレがくっつくのを嫌そうにするくらいなのに。
しっかりと回した腕を、恭弥は外そうとしない。
(あー…、でも、なんだ)ディーノは普段の感覚を思い出して、少し気持ちがわかる。
自分の身体で包み込んで抱き締める感触は、何となく気持ちが良くて。
通常では出来ないそれを、恭弥は楽しんでいるのかも知れない。

スキンシップを避ける恭弥がくっついてくるのだから。
こんな姿になって、少しだけ得したかな…?とディーノは小さく笑った。
その考えを、後で後悔する事になるのだが。


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